宅録音源はメジャーリリースと勝負できるか?

宅録時の収録空間や機材の使い方、その他心構えに関するエントリです。
やや長いので、要点だけ整理してご紹介します。

Pro Audio Filesより
“Can Home Recordings Compete with Major Releases?” by Matthew Weiss
記事概要意訳

宅録音源はメジャーリリースと勝負できるか?

間違いなく可能だ。著者はAkonのRec/Mixを担当しているが、Kon氏が超多忙なため、民泊(Airbnb)でモバイル録音した作品もある。

業務スタジオとそうでない空間の決定的な違いは、前者の方が容易に完璧で柔軟な(訳注:方向性の変更に対して融通の利く)音が録れること。宅録でも収録時の方向性さえ誤らなければ、十分に使える音が取れる。

業務スタジオと宅録の違い

まず第一の違いは、空間。宅録では部屋の反響特性にまつわる制約が多い。
業務スタジオは収録に理想的な反響が得られるよう考慮して設計されている。具体的には、マイクが拾う不要な反射音や、それにともなうコム・フィルタリング(訳注:壁の反射音により特定の周波数だけが増幅/減衰する現象)が少ない。民泊で録音する場合などは、これが最小になる場所を探す。実際に音を出しながら、ヘッドホンでモニタしながらマイクスタンドを動かして回る。マイクに最も近い壁面は、一次反射が直接マイクに入らない角度に配置する。自宅スタジオではそれなりに反響を抑制しているが、それですら毎回良いポジションを探すようにしている。

ブースはどうだろう?
業務スタジオのブースの多くは50立法フィート(訳注:約1.4立方メートル)以上の容積があり、加えて反響もよく考慮された上で設計されており、コム・フィルタリングが少ない。

コム・フィルタリングは録り音を安っぽくする要因となる。個人的に「押し入れブース」を勧めないのはこのためだ。ドライながらコム・フィルタリングが含まれる録り音よりも、良質な反響を含む音の方がはるかにマシだ。

高価な機材は?

高価で良質な機材はマジックを起こすが、真のマジックは別のところにある。
まず、ドラム、ギター、ベースの多くは、業務スタジオにおいてもダイナミックマイクで収録されている。これらは高価なものでも$400以下で入手できる。ボーカル、アコギ、フルート、ピアノなどにはコンデンサーマイクが使用され、こちらは高額になりがちだ。

これまで各種マイクでAkonを録音してきたが、最終的には歌手との相性の方がマイクの価格よりも問題になる。元々ハイ成分の多い歌手に高域がギラつくタイプのマイクを使用すると耳障りになる。その逆もまた然り。

機材の使い方を知ることも重要。
近接効果を例に挙げる。マイクによって適切な設置距離は異なる。録音対象に寄せた方がよいマイクもあれば、離した方がよいものもある。また、収録対象の特性によっても最適な距離は異なる。低域をより引き締まった音にしたければ、数インチ離すだろう。EQで帯域バランスを調整するよりも効果的だ。

結局、もっとも重要なのは収録に使用する空間になる。これは前項で取り上げたばかりだが、再度強調しておく。反響音が明るい部屋でハイ成分の多い歌手を収録した場合、使える音に編集段階で落とし込むのは大変な労力を要する。

結論:マイクのキャラクターと収録に使用する空間の特性の方が、マイクの価格よりもよほど重要だ。

プリアンプも重要?

使用するプリアンプは音のキャラクターを左右するが、最も大きな違いはハイゲイン時の特性だ。高価なものでは、たとえばAPIなどはどこまでもクリーンだし、NEVEのように早い段階で歪み(とはいえ音楽的には良質なサチュレーション)を加えるものもある。

低廉なプリアンプの多くは、ゲインが増すほど好ましくない音になりやすい。こういった製品では極端にゲインを稼ごうとせず、規定レベル内で使用する方が良質な結果を得られる。どうしてもコンバータの入力レベルが可能な限り高くなるようゲインを上げたい衝動に駆られるが、信号品質のことを考えるとこれは適切ではない。DAWのメータでいうと、グリーンの範囲内に収めるのがよい。イエローの領域に達するのは好ましくない。これもまたよく見かける悪習だ。

では、あとはミックススキルの差?

YesでありNoでもある。
そもそも、楽器の出音の違いがある。上手な奏者やボーカリストは、マイクにとってベストな音を出す術を心得ている。より経験の少ない奏者は、そんなことなどお構いなしに演奏する。それは自体は悪いことではない。本来、演奏をあるがままに収録できることが理想的だ。しかし、ときには双方が互いに歩み寄る努力が必要だ。良質な音が録れているかどうかの基本的な判断方法は、EQ/コンプ無しでもそこそこ聞けるものになっているか。その後のプロセッシングは、その「そこそこ良質」な音を、より良くするためにある。

とはいえ、プロセッシングも等しく重要ではある。収録音が最大限に活きるよう、ときには十分に時間を掛ける必要があるし、録り音に問題(不自然な部屋鳴り、位相のおかしいステレオ収録、歪、etc..)があれば、それを解消するために創意工夫を凝らす必要がある。真に必要なのは、このような問題を特定できるように鍛えられた耳と、対処方法を見出せる柔軟な思考力だ。

ミキシングは、ある種の判断能力を必要とする。プロセッシングがまったく不要であれば手をつけず、EQ/コンプ/リバーブを多段に積む必要があれば、実行に移せるような判断力だ。まったくプラグインを使わないトラックもあれば、DAWのエフェクト・スロットを使い切ってもまだ足りず、バウンスしてさらに処理を重ねる場合もある。

まとめ

宅録でも業務スタジオと同等、あるいはそれを上回る成果を得ることは可能だ。すべては演奏者とエンジニアのスキルで決まる。メジャー・レーベルでも、アーティストがガレージで録音したようなトラックを受け取ることはよくある。(それがむしろ最高に良かったりする)
宅録素材の方が磨き上げるのに手間を要することがあるのは確かだが、録音状況に関わらず、良質な演奏からはたいていの場合良質な音源が得られるだろう。

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