製品レビュー:CenterOne by Leapwing Audio

Leapwing Audio社のステレオ・イメージ操作プラグイン、CenterOneの機能紹介とレビューです。

製品概要

CenterOneは、主にステレオ音像のセンターとサイドに対し、個別に音量操作などを行うツールです。
音像中のセンターパートの奥行きやバランスをわずかな副作用で簡単に調整できることからこの一点が注目されがちですが、機能はそれだけにとどまらず、応用次第では現存する他のツールでは到底不可能な処理も可能です。

インターフェースは大変シンプルで、主に2つのセクションから成ります。

ひとつ目は、画面左側を占める”Center prominence”セクションです。ここでは機能名が示すとおり、センターの「存在感」を±9dBの範囲で操作することができます。このセクションの挙動は、メーカによる製品紹介ビデオがわかりやすいかと思います。

2つ目の機能は、右側にある “L-C-R Level Fader/Meter”です。
こちらでは、L-C-Rが示すとおり、Left/Center/Rightの音量を個別に操作できます。

このセクションのユニークな機能として、ここで「センター」と定義するものの左右幅を右端のCenter Channel Widthフェーダで、また、その下のスライダーでは対象となる周波数帯を、それぞれ任意に調整することができます。

同じような場面においてM/S処理を行う場合、意外とド真ん中よりも左右いずれかに寄った成分もMidの対象となってしまうことがありますが、CenterOneではより柔軟な調整が可能です。

さらに後述するように、分離した3つのチャンネルはGUI上のフェーダ上でバランスを調整するだけでなく、それぞれ独立した信号としてDAWのバスに出力することもできます。

このプラグインを制作したLeapwingはベルギーの企業ですが、CenterOneにはフランス籍の2つのDSP開発会社からライセンスを受けた技術を投入しているそうです。※ソース

ですので、近い将来に他社が同等の製品をリリースしたり、既存製品の新機能として実装することはなさそうです。

また、製品サイトにBob Katz氏が大変前向きなコメントを寄せていることから、マスタリングにも比較的安心して使用できるものと思われます。

M/S方式との違い

さて、Mid/Sideを個別に操作するだけであれば、M/S処理を行う無数の製品がすでに存在し、特に目新しい点はありません。
しかし、Mid/Sideチャンネルの抽出(エンコード)する手段は左右チャンネル間の単純な加算や減算による、ある意味たいへんプリミティブなものであり、またM/Sチャンネルの個別処理には副作用が伴います。

CenterOneが使用するアルゴリズムにより分離したチャンネルは、それぞれに対する音量変化による位相への影響が極めて少なくなっています。

下に、一般的なM/S方式でMidチャンネルをミュートした場合と、CenterOneにてCenterチャンネルをミュートした際のステレオスコープの違いを記載します。

左:M/S処理でMidチャンネルをミュート / 右:CenterOneでCenterチャンネルをミュート

余談ですが、「M/S処理による位相変化」と言われてピンと来ない方のために、ひとつ提案したい実験があります。

まず、適当な音源をご用意ください。モノラルのトラックでも結構ですし、ステレオの市販楽曲でも構いません。

これをDAWに読み込み、左右一方のチャンネルのみ反転させてみてください。
おそらく左右の広がりのようなものが増えた代わりに、センターがはっきりしない、芯がボケた音像になったかと思います。

このような音響効果を演出の一部として活用する分には特に支障はないのですが、場合によっては様々な弊害が伴います。

こういった左右チャンネルの位相差に気付けるようになると、後々ミックス/マスタリング時に役立つかもしれませんので、これを機会にスピーカ、ヘッドホンの両方でその特徴を覚えておくことをお勧めします。

M/S処理の落とし穴については、こちらの60pに記載がありますので、さらに詳しくご覧になりたい方はご一読ください。

左右の広がりを調整するなど、ステレオ音像の幅を増減することが目的であれば、上記のようような位相の問題はある程度許容できるか、あるいはむしろ好ましいかもしれませんが、Mid/Side間のバランスを調整したり個別に処理することが目的である場合、M/S処理による副作用は看過しづらいこともあるかもしれません。そのような場面でこそ、CenterOneが活きるものと思われます。

L-C-Rのバス送りについて

CenterOneのGUIの右半分を占め、L-C-R 3つの成分に音声信号を分離するセクションは、エフェクト内部でレベル操作を行うだけでなく、3つの独立した信号としてホストDAWのバスに出力することもできます。これにより、特定のチャンネルに対してのみ処理を行いたい場合は、外部エフェクトで処理をすることも可能です。

M/Sエンコーダと似ていますが、処理後に信号を復元するには再び3つの信号をサミングするだけで済みますので、デコーダに相当するものは必要ありません。
また、分離時にはCenterセクションの範囲を緻密にコントロールできますので、たとえばCenterチャンネルを作業対象とする場合、その範囲もM/S処理よりも柔軟に調整できます。

ところで製品マニュアルには、この分離機能が「処理を加えない限り元信号と”Bit Identical”である(バイナリ一致する)」との記述があります。言い換えればL-C-R分離自体による音質劣化は皆無と豪語しているわけですが、これが本当かどうか半信半疑ながら試してみました。

少なくとも筆者がPro Toolsを中心とした環境で試した限り、元のステレオ・ファイルを16bitで書き出したものと、CenterOneで分離後に混合したものがバイナリ一致することはありませんでした。
ご参考までに、2つをWavecompareで比較した結果を記載致します。

次に、DAWにステレオの音声を読み込み、およそ-20dBFS RMSで再生中、CenterOneで3本のバスに分離後に再び混合したものを逆相で元信号にぶつけたところ、スペクトラムは下図の通りになりました。

ここでも筆者自身は Bit Indenticalであることを確認できていませんが、少なくともモダンなDACにおいて機器自体がもつ熱ノイズとさほど変わらないレベルのノイズであることが確認できましたので、CenterOneを使用するメリットと天秤にかければ無視できるレベルかと思います。

寸評

なにより、機能としてはオンリー・ワンのプラグインです。
バランスに難のある2mixやカラオケ音源と対峙(退治?)せねばならないことの多い立場の方は、CenterOneをツールキットに加えておいてきっと損はないでしょう。特にMid/Side固有の問題をM/S処理で解決することを試み、音像が破綻することとのトレードオフに頭を抱えた経験のある方にとって、CenterOneはきっと福音になるでしょう。

一方、基本的にマルチトラックのミックスしか行わない方は、この製品の恩恵にあずかれないかもしれません。

最後に、分離した3つのチャンネルを別のバスにルーティングするには、使用するホストがプラグインのAUX出力から信号を受け取る機能を備えている必要がありますのでご注意ください。
これができないホストにおける代替手段として、CenterOneを挿したトラックを3つに複製し、それぞれのL-C-Rフェーダをひとつだけ残した状態でミュートすれば同様の信号は得られます。

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Leapwing Audio – CenterOne

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