ゲイン・ステージングとは?

デジタルにおける適正レベル

-20あるいは-18dBFS RMSを0VUとし、あらゆる信号レベルは、メータがこの辺りに振れる程度を基本とします。

これもアナログ同様に、それほど難しく考える必要はありません。近年のDAWの多くはトラック・メータとしてRMSメータを選択できます。

上図はプラグイン式VUメータの設定画面の一例。0VUとなる基準RMS値を設定することができます。

また、各種ベンダーからも有償、無償のVUメータ、RMSメータがプラグインとして提供されています。これらを立ち上げ、録音やミックス、ファイルの書き出し時、その他各種場面でメータが0VU付近を指すように作業します。

さて、0VUと定義する値を「-20または-18dBFS RMS」としましたが、これらは前者が米国、後者が欧州の業界団体によってそれぞれ推奨されるレベルとなっています。

米国ではSMPTE(米国映画テレビ技術者協会)を中心に、-20dBFS RMS= 0VUとすることを推奨しています。

また、欧州ではEBU(欧州放送連合)が、デジタル音声においておよそ-18dBFS RMS=0VUとすることを推奨しています。

※EBUの推奨値は、より正確にはdBFSを基準としておらず、「PCM方式の最大レベル(0dBFS)よりヘッドルームを3bit分設けたレベル」を0VUと定義しており、結果的に-18dBFS相当となっています。

なお、日本はJAPRS(日本音楽スタジオ協会)が、上記の各団体よりも高い-16dBFS RMS=0VUと定めることを推奨しており、この基準値は現在も国内の業務スタジオの多くで採用されています。

ただし、後に詳説するように、今日現在モダンな24bitコンバータを使用する限り、欧米の基準値よりもヘッドルームを小さくとるメリットはありません。逆に、ヘッドルームが小さくなる分だけ、信号がオーバーロードする可能性が高まるというデメリットはあります。

以下、デジタル音声を扱うシチュエーションごとに、より具体的な運用方法をみてみましょう。

アナログ音声信号(マイク/ライン)録音時

チャンネルのRMS/VUメータが-20~-18dBFS RMSの範囲にだいたい収まるようヘッドアンプのゲインなどで入力レベルを調整します。繰り返しになりますが、参照すべきはピーク(dBFS Peak)ではなくRMS/VU(dBFS RMS)である点にご注意ください。

信号レベルをコンバータが想定する規定レベルに厳密に近付けたいのであれば、製品マニュアルを参照するといいでしょう。機器スペックにある入力レベルに関する項をご覧いただくと、「最大入力レベル…+22dBu」といった表記があるかと思います。

あるオーディオ・インターフェースのカタログより。最大入力レベルの記載があれば、その信号レベルが0dBFS RMSに相当することが予想されます。

 前項でみたように、業務用音響機器におけるアナログ音声信号の適正レベルは+4dBu=0VUと定められています。たとえば上図のようなスペックを標榜する製品では、0dBFS RMSが+24dBuに相当するため、規定レベルとなる+4dBuで入力された信号は、DAW上のRMSメータを-20dBFS RMS程度振るものと予想されます。

この信号レベルは、一部では根強い考え方である「マイク録音時は0dBFSを超えない範囲で可能な限り高い方がよい」というアプローチからみると随分と低く見えるかもしれませんが、これも後述するように24bitコンバータが主流となっている現在ではあまり意味がありません。

余談ですが、2019年2月に、ある音響機器メーカが自社製マイクロフォンのプロモーションも兼ねてミックス・コンテストを開催しました。そのときに提供されたトラック素材のレベルは、-20dBFS RMS程度でした。

D/A変換時

D/A変換時も録音時と同様、出力レベルを示すRMS/VUメータが-20~-18dBFS RMSに振れる範囲を目指します。

一般的な業務用コンバータであれば、上記レベルで出力した際のアナログ音声信号がおおよそ+4dBuに相当します。

これはコンバータに限らず、デジタル機器が普及する太古の昔よりアナログ音響機器が規準としていた信号レベルです。よって、アナログ・アウトボードで信号を処理することを目的に一旦アナログ音声に戻す場合も、このあたりのレベルが受け側が想定している標準的なレベルということになります。

受け側となる機器への過大入力による歪みを表現として取り入れる明確な意図がある場合は別として、基本的にあらゆる機器が想定する入出力レベルである+4dBu=0VUに揃えるのが合理的です。

ミックス/マスタリング時

プラグイン方式のVUメータにおいて、0VUに相当する信号レベルを任意に設定できることからもわかるように、デジタルにおいて厳密な決まりはありません。ただし、A/D、D/A変換時と同じように各信号経路を-20~-18dBFS RMSに統一するよう心掛けると、以下のメリットがあります。

  1. 最終的にD/A変換する際に、出力されるアナログ信号を基準とするレベルに合わせるためにマスターバスのレベルを大きく操作する必要がない
  2. ピークメータを見なくてよい(K-Systemと同じ理屈です)
  3. コンプ前後などのレベルも揃えることになり、体感音量の差異に作業者自身が騙されにくい
-18dBFS RMS=0VUに設定したスタジオの信号チェーンにおけるレベルの一例

なお、モデリング系プラグインの多くも、実機同様に-18dBFS=0VUを基準レベルとする前提で設計されています。たとえばUADやWaves製品の多くは、-18dBFS=0VUを基準レベルとしています。(詳しくは各製品のマニュアルをご覧ください。)

繰り返すよう、最終的にはサウンドが好みであればルールは存在しませんが、少なくとも基準以上のレベルで運用する場合、プラグインの開発者が想定する以上の歪みを加えている可能性があることは留意しておくといいでしょう。

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