製品レビュー:Softube Weiss MM-1

マスタリング・マキシマイザ Softube Weiss MM-1の紹介と簡単なレビューです。

総評:コレすっごいイイけど、マキシマイザじゃなくね?

製品の背景

MM-1は、Weiss社によるマスタリング・コンプレッサ DS1-MK3をベースに、少ないパラメータで簡単に操作が行えるようチューニングされた製品です。

DS1-MK3のプラグイン版に付属し、また単体でも購入が可能です。

DS1-MK3は90年代に登場したやや古い製品ですが、少し前にプラグイン版が登場した際、100万円近くする実機のアルゴリズムを完全再現したことで話題になったのを覚えている方もいらっしゃるかもしれません。

Weiss DS1-MK3

DS1-MK3はアウトボードではありましたが、入出力、内部ともに完全にデジタルの機材でした。プラグイン版のウリであるように、実機のコードを「1行ずつ」完全移植したとのことですので、理論上は実機もプラグインも出力結果が変わらないことを意味します。

逆に出力結果が同一にならないデジタル機器の一例として、先日Universal AudioがリリースしたLexicon 480Lが挙げられます。こちらの実機は内部処理こそデジタルではありますが、入出力はアナログでした。そうなるとアナログ回路の特性なども含めて製品固有のシグネチャ・サウンドとなるため、アルゴリズムのコードを完全に移植してもアナログ部分もしっかりとモデリングしなければ同じサウンドにはなりません。

とはいえ、筆者が調べたところではプラグイン版のDS1-MK3は厳密には実機と同一の結果を得られないものと見受けています。というのも、実機の出力はAES/EBU接続による24bitでしたが、プラグイン版の出力をビットメータで見る限り24bitにはクォンタイズされておらず、32bit floatで出力されているようでした。よって、ある意味では実機よりも高精度かもしれません。

他にも、実機が上限としていた96kHzの制約がないなど、いくつかプラグイン固有の機能が追加されています。

シリーズにおけるMM-1の位置付け

Softubeが制作したプラグイン版DS1-MK3のシリーズには、ほかに “Compressor/Limiter”、”Deess”などもあります。これらは、ともすれば膨大なパラメータにより煩雑になりがちなDS1-MK3を、個々の目的に応じて使いやすいよう、前面パネルで操作できる項目を絞り込んだものです。しかし “Compressor/Limiter”、”Deess”は、メニューをたどれば表に出ていないパラメータもある程度(ほぼすべて?)はアクセスが可能で、どちらかというとDS1-MK3のGUIや使い勝手だけを改めたバージョン、あるいは下位互換といった位置付けにあるように見えます。

一方のMM-1は操作できるパラメータは基本的に表に出ている4つだけと、非常に限定的です。マニュアルにはMM-1がDS1-MK3の技術をベースにしている旨は記載されていますが、前述の製品のように下位互換なのか、あるいはDS1-MK3では再現できない独自の処理を行っているのかは不明です。

まとめると、Compressor/LimiterおよびDessは、DS1-MK3を極めた方には不要(設定により同一の効果が得られる)かもしれませんが、MM-1は???といったところです。

使い方

MM-1はコンプレッサとリミッタがセットになっており、それぞれサウンドメイクと収録RMSアップに使用できます。

手順としては、コンプ部分のStyleを以下の5つから選んだのち、”Amount” でコンプの深さを、”Parallel Mix” でDry信号を混ぜる割合を決めます。

Transparent

最も色付けが少ないスタイルです。

Loud

マニュアルには「最大のRMSを得るために使用する」とあります。使ってみたところ、2~4kHz辺りが強調される印象を受けました。とにかく聴感レベルを最大化させたい場合に有効そうです。

Punch

マニュアルには「パンチと重量感を加える」とあります。
帯域バランスがわりとフラットな2Mixに使用したところ、低音から中域にかけてのビートがスムーズに強調された印象を受けました。

Wide

M/S処理により奥行きと広がりを加えます。

Deess

マスタリングで使用することを想定したディエッサーです。
このモードもM/S処理を使用することがマニュアルに記載されています。


さて、このプラグインを立ち上げた途端にわかるように(デフォルトではAmountが50%となっているので)入力ゲインを上げたりリミッティングを一切せずとも、ダイナミクスに変化が生じます。

前述の手順でコンプによりおおよそのダイナミクスを整えたあと、最後のパラメータ…リミッタの入力ゲインを上げて、目的とする収録レベルまで持ち上げます。

所感

プリマスタリングの工程において、収録レベルを上げるため最終段にはたいていデジタル・ピークリミッタが置かれますが、グルーヴをより鮮明にしたり、Glue(パート間に適度な統一感と一体感を加える)目的でコンプレッサもよく使用されます。

MM-1は製品名にMastering Maximizerを含むため多大な誤解を受けそうですが、どちらかというとこのコンプレッサの役割がメインで、リミッタ部分は副次的なものに思われます。(前項「使い方」で旧来のマキシマイザ的な機能にほとんど触れなかったのは偶然ではありません。)

メーカもそれを意識してか、リミッタが出力する最大レベルはメニュー内にて4つほどの固定値から選択できるものの、いまどきトゥルーピークに対応する機能も有しておらず、いずれを選択してもTPが0dBFSを越える場面がありました。MM-1のリミッタ部でもかなり自然なリミッティングは可能ですが、TP -0.01dBを狙うようなマスターを作りたい場合には、別途リミッタが後段で必要になると思われます。

しかしコンプレッサの部分は大変優秀で、試験してみた2MIXに対しては前述の5つのスタイルのいずれを選択しても「みんな違って、みんないい」感があり、どれを採用するか迷ったほどです。

このような背景からMM-1は、FabFilter Pro-L2iZotope Ozone Maximizerと競合する製品ではなく、筆者が知る限りではDrawmer S73(Softube)や、bx_masterdesk(Brainworx)の代わりになるものではないかと思われます。

試用、あるいは購入される際は音圧マシマシのためのツールではなく、どちらかというとダイナミクスをソレっぽく仕上げてくれるセミ・オートのマスタリングコンプレッサと思えば失敗はしないでしょうし、フル活用できるのではないかと思います。

個人的には、特に以下のような方こそ有効活用していただけるのではないかと思います。

  • ミックスを仕上げたものの、全体的にグルーヴ、一体感、厚みなどがなにか物足りないと感じている方
  • bx_masterdeskの製品コンセプトを気に入っているが、アナログ感やサチュレーションは要らない&ダイナミクス処理の選択肢がもっとほしいと感じている方

まとめ

良いところ

  • ジャンルを問わず、手軽にダイナミックスをそれっぽくイイ感じ仕上げてくれる
  • セミ・オートのマスタリングコンプとしては大変優秀
  • TP 0dBFS越えが問題なければリミッターもナチュラルで使いやすい

期待してはいけないところ

  • TP 0dBFSギリギリを攻める使い方はできない。(それ自体は問題ではないが、製品名がミスリーディング)
  • GRが大きくなってくると、Styleを切り替えた際の聴感レベルが大きく変化することがある
  • Analog mojoなどここにはない
  • サチュレーションなど、帯域の欠損を埋める役割はしない

本日の販売価格

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