632Hzの重要性

MagphaEQのクリエイターでもあるマスタリングスタジオ BalanceMasteringが提案する、EQポイントを素早く見つけるためのフレームワークをご紹介致します。

原文:The significance of 632Hz

一般にヒトの可聴域は20~20,000Hzとされています。
周波数とスケールは対数の関係にあるので、632Hzというのは可聴域のちょうど中間に位置する周波数です。(厳密には632.456Hzですが…)

多くのEQは632Hzという数値を別段強調するようなラベリングを行ったりはしませんが、一旦この周波数を意識しはじめると全帯域を俯瞰することがたいへん容易になります。

前述のように632Hzは可聴域の1/2地点にあたりますが、可聴域を3等分すると次のようになります。

  • 20 – 200 – 2,000 – 20,000

大雑把にいうと、3等分された区間はそれぞれロー/ミッド/ハイに相当します。

今度は可聴域を6等分してみましょう。

  • 20 – 63 – 200 – 632 – 2,000 – 6,324 – 20,000

さて、ここまでご覧になって、ある法則に気付かれましたでしょうか?
6等分された可聴域は、20 & 63という、わずか2つの数字だけで表現されています。

これまでロー/ミッド/ハイ以上に細かく帯域を分割する術をご存じなかった方々にとっては、このように6等分する考え方は有効なフレームワークとなるでしょう。

あるいは逆に、すでに特定の周波数を特定のカラーと結び付けて考えている方…たとえば「150Hzはロー鳴り」「700Hzは鼻にかかるような音」「4,300Hzはプレセンス」といったイメージを持っている場合、一歩引いて各帯域に等しく注目するきっかけになるでしょう。

この6等分した帯域を、新たにラベリングしてみましょう。

  • 20: Sub
  • 63: Bass
  • 200: Low mids
  • 630: Mids
  • 2,000: Upper mids
  • 6,300: Treble
  • 20,000: Air

どうですか?
これら6つのバンドを意識すれば、比較的Q幅の広いEQだけでグレートなミックスができるような気がしてきませんか??

次に6等分した可聴域を、さらに2倍に分割してみます。

  • 20
  • 35
  • 63
  • 110
  • 200
  • 350
  • 630
  • 1,100
  • 2,000
  • 3,500
  • 6,300
  • 11,000
  • 20,000

ここで、35 & 110という2つのマジックナンバーが新たに登場しました。先ほどと同様、各区間は対数の関係にあるため、ヒトの聴覚は上記の周波数それぞれの間隔をおおよそ等しいものと認識します。

さらに細かく分割された帯域の一覧は(50HzはHumぽいとか中央Cの上のFの周波数がどうだという詳細は別として)全帯域を俯瞰するツールになります。

この程度の粒度で考えることは、ミックスやマスタリングを行う上で効果的で、広め~中程度のQでEQ処理を行う際にそれぞれの帯域を眺める地図として活用できるでしょう。(広め~中程度のQでEQ処理を行う際…とはいいましたが、本来EQ処理の多くはそうあるべきです。しかし、より狭いQの有効性に関する議論はまた別の機会に譲るとします)

もちろん、可聴域をより細かく分割することはできます。
さらに2倍…24等分すると、今度は24/47/84/150という4つのマジック・ナンバーが登場します。

  • 20
  • 27
  • 35
  • 47
  • 63
  • 84
  • 110
  • 150
  • 200
  • 270
  • 350
  • 470
  • 630
  • 840
  • 1,100
  • 1,500
  • 2,000
  • 2,700
  • 3,500
  • 4,700
  • 6,300
  • 8,400
  • 11,000
  • 15,000
  • 20,000

そもそも、なぜこのような周波数が重要なのでしょうか?
シンプルに答えるなら「スピード」ということになります。

これらの数字の取り扱いに慣れるには少しばかりの時間を要するかもしれませんが、一旦このように帯域を分割して眺めることに慣れると、作業中の決断が早くなります。

たとえば、いまひとつ気に入らないサウンドがあって、どうも音色が問題であると気づき、EQで対処する判断を下したとします。
…というと随分と長い思考過程があったように思われますが、通常ここまでは感覚で即座に判断しますよね?

このような場面では、分割されたそれぞれの帯域に優先順位をつけて(もちろん耳を併用しながら)次のような判断に基づいて対象となる帯域を絞り込むことができます。

  • 0/200/20,000Hzは関与しているか?
  • 63/630/6,300のいずれかは?
  • 35/110/350/1,100/3,500/1,1000のいずれかは?
  • 十分に絞り込めたので、念のためもう一階層、絞り込んでみるか?(さらなる絞り込みのための48等分については後述)

熟練者であれば、上記の初歩のステップは省略して、

  • ハイのうちでも低めの帯域が問題であることはわかっているので 3,500 / 4,700 / 6,300のどれが最も近いか試してみよう

という判断を初手から下すこともできるでしょう。

このようなフレームワークに従うと、タスクの開始から終了までが早くなります。各段階で必要なだけの粒度で帯域を探り、また必要以上に深入りせずに次のタスクに移れます。

稀に、これ以上の粒度で対処する必要に迫られることはあるでしょうし、それ自体は問題ではありません。ここで紹介する考え方は厳密なルールではなく、効率よく各バンドと向き合うための緩いフレームワークにすぎません。

ここで、記事をより完全にするために48等分した数値も見てみよう。一応指摘はしておくが、私自身でさえ普段のマスタリング業務においてこれほどの粒度で帯域を考える場面というのは、そう滅多にあることではない。

  • 20
  • 23
  • 27
  • 31
  • 35
  • 41
  • 47
  • 55
  • 63
  • 73
  • 84
  • 97
  • 110
  • 130
  • 150
  • 170
  • 200
  • 230
  • 270
  • 310
  • 350
  • 410
  • 470
  • 550
  • 630
  • 730
  • 840
  • 970
  • 1,100
  • 1,300
  • 1,500
  • 1,700
  • 2,000
  • 2,300
  • 2,700
  • 3,100
  • 3,500
  • 4,100
  • 4,700
  • 5,500
  • 6,300
  • 7,300
  • 8,400
  • 9,700
  • 11,000
  • 13,000
  • 15,000
  • 17,000
  • 20,000

Sontec 432といった有名なイコライザーが、ここで紹介した帯域とおおよそ似たような中心周波数のステップを有していることは偶然ではありません。
ステップごとの間隔はヒトの聴覚には均等に聞こえますし、ステップごとの違いが明確であるため、どの帯域が場面ごとに適切かは即座に判断できます。

まずはいくつかキーとなる数字…20や63あたりを覚えて、そこから徐々に各帯域が全体にどのように作用するか理解を深めるといいでしょう。

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