製品レビュー:Techivation AI-De-Esser

Techivationのディエッサ・プラグイン AI-De-Esserのレビューです。

さて、本題に入る前に…

いわゆるひとつのDisclaimer

今回のエントリ執筆に際して、メーカからの提案によりレビュー目的のライセンスを無償でいただきました。
製品ライセンス以外の報酬はいただいておらず、オファーを受けるにあたり「試用後にレビューを書くかどうかは当方の自由」とさせていただきました。
また、メーカを含むいかなる第三者の検閲も受けていませんので、当方ブログの慣例どおり、本音レビューであることは保証致します。

AI-De-Esserの特徴

AI-De-Esserはその名のとおりディエッサーであり、UIはシンプルでパラメータも少な目です。
まず目立つ点として、ディエッサを「操作する帯域を絞ったコンプレッサ」と考える旧来の製品とは違い、スレッショルドやAttack/Releaseに関するパラメータはありません。

この点は一見すると不自由に見えるかもしれませんが、スレッショルドの設定がないのは理由あってのことです。
AI-De-Esserは、旧来のディエッサのように各成分の「絶対的なレベル」を検知するのではなく、ソースの音量に関わらず耳障りな成分に反応しているようです。その証拠に、Diffモード(いわ ゆる処理前後の差分のみを聴かせるDelta機能)を有効にしてプロセッサに入力するレベルを上下させても、減衰される帯域やレベルはほとんど変化しません。

スレッショルドがないということは、FXチェーンの中でディエッサを挿す順番に煩わされたり、手前に配置したFXの設定を変えたときのレベル変化により、AI-De-Esserの動作が変わることを心配することから解放されます。たとえば、曲中の各箇所ごとに耳障りなs音の音量が毎回違うことにより、スレッショルドに引っ掛かるかどうかを毎回気にする必要もなければ、突発的なシビランスがポンピングを起こす箇所だけオートメーションで設定を変えたりすることもありません。

この点ひとつをとっても、スレッショルドをもつ昔ながらのディエッサとは、使い方もサウンドも異なることは容易に想像できるでしょう。

もうひとつ、AI-De-Esserの特徴的な機能にAirがあります。
ディエッシングによって高域が削られると、えてして音が暗くなったような印象を受けてします。
その場合はAirを有効にすると、ディエッサによる減衰にともない歪みが付加されることにより、聴感上の明るさが変わることを軽減できます。

ディエッサに限らず、高域にのみ作用するDynEQで高域を叩くと同時にシェルビングEQで高域を持ち上げるのは、可聴域の上限までスムーズに伸び、かつ安定したハイを得るための定番テクニックです。しかし、旧来のプロセッサは単純な信号レベルに反応するため、「潰して上げる」処理はどうしても平面的なサウンドにつながりがちです。

これに対し、不要な成分のみを切り分けて下げ、高域のエネルギーが減った分は歪みで補完するAI-De-Esserのアプローチは、より立体感を残したまま定番テクに近い効果を得たいときに有効な場面もあるかと思います。

使用感

今回メーカからオファーをいただき、ふたつ返事で試用を承諾したのは、まさにシビランスに苦労しているトラック編集の真っ最中だったためです。

プラグインを立ち上げると、まずはソースの特性を学習(Learn)させるために、トラック中で最もシビランスが気になる部分を再生します。

Learnボタンを押して4秒間の学習を終えたところ、ほどなく「80% Focused, 20% Smooth」という解析結果が表示されました。
それの意味するところはよくわかりませんが、Learnした直後の初期設定でも、ボーカルが<イ段>の音を張り上げたときの4kHz前後の耳障りな成分から、s音の発するホワイトノイズに近い10kHz前後のパーカッシヴな成分まで、きれいに均してくれました。

あとは「Sens(感度)」と「De-Ess」の2つのパラメータを中心に音を追い込んでいきます。
今回は使いませんでしたが、実質的に操作することになるパラメータは、上記の2つ以外にはMix(いわゆるDry/Wet)ぐらいしかありません。

プラグインの立ち上げから一旦設定を終えるまでに要した時間は、およそ30秒足らずでしょうか。
その後、Weiss Deessである程度近い効果を得られるか追い込んでみたところ、それよりも遥かに長い時間を要してしまいました。
ユーザの方はご存じでしょうが、Weiss Deess(および、元となったDS1)は、PeakとRMSそれぞれに異なるリリースタイムを設定することで、より自然なゲインリダクションを実現しています。しかし、レベル検知には信号レベルだけをみる旧来の方式をとるためか、やはり若干のコンプ感が伴う気がしました。

次に、シビランスのやや目立つ2mixにAI-De-Esserを使用してみました。
Learnした結果は「85% Transparent, 15% Crisp」という、相変わらず謎めいた表示…
2mix用ディエッサとして筆者の定番となっているSoothe2(…の某プリセット)に比べると柔軟性は欠きますが、これも製品の価格差を考えると十分でしょう。

総評

AI-De-Esserに限らず、競合製品よりも一見パラメータが少ないプラグインはビギナー向け、あるいは自由と引き換えに時間を短縮するためのツールとみなされがちです。
また、AI搭載を謳うプラグイン全般にいえることですが、曲の一部だけを再生して学習した結果から、全体に適用できる単一の設定を割り出すのは、やや無理があるように感じます。
AI-De-Esserはそういった慣例に反して、機能的にも「使える」ディエッサとして、価格分以上の値打ちはあるように感じました。

メーカに尋ねたところ、Learn後には内部パラメータが固定されるわけではなく、瞬間ごとのソースの特性に合わせて常時変動しているそうです。
このあたりに「パラメータの初期設定にだけ」AIを使うようなプラグインよりも柔軟にソースに対応できる秘密がありそうです。

少なくとも、筆者が今後ボーカルMix中にディエッシングの必要性を感じた際には、まず第一に試すプラグインになると思います。
特にボーカルMixを頻繁に行う方々には、より短時間で自然なトラック処理を実現するツールとしてお試しいただきたいです。

長所

・入力レベルに左右されないAdaptive方式のディエッサ
・単一トラックに使う分にはかなり賢い学習結果(いまのところハズレ無し)

短所

・Learn後に表示されるキーワード(Transparent, Crisp, Focused, Smooth, ほか??)の意味するところの説明がない
・すでに十分コンパクトなUIなので、Sens/Mix/Outのパラメータをひとつずつ切り替えて表示する形式ではなくすべて表に出してほしかった
・遅延が大きいので、収録時のモニタに使用するのは無理がありそう
・日本語マニュアルが中華フォント現象の被害に…

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