Sound On Sound誌 2009年2月号掲載
“Creating A Sense Of Depth In Your Mix“より意訳
EQを使用する
音像の奥に配置したいトラックは、フェーダを下げるだけでなく高域を削る必要がある。これは高い周波数ほど空気により吸収される現象を再現するため。距離を演出するために150~200Hzあたりをローカットしてもいいだろう。マイク収録時は実際にマイクを遠目に設置するのも効果的だ。
正しいリバーブを選ぶ
奥に配置したいパートに使用するリバーブは、高精細なものではなくややぼやけたサウンドのものを使用し、先のEQ同様にハイを削るといいだろう。また、実際の空間では遠い音は反射音も多く含むだろうから、比較的深めにかけてもいい。
ただし深くかけすぎるのは禁物。モダンなミクスは、70,80年代に比べると大変ドライになっている。
基本的に隙間の多いミックスほど音像を濁さずに深いリバーブをかけることができる。逆に密度の高いミックスはアンビエンス系のプリセットでEarly Reflectionを中心に使う方がいいだろう
エコーの使用
先ほどのリバーブにテープエコー、あるいはそれらのシミュ系エフェクトを組み合わせるのもよい方法だ。テープエコーは、ときに鮮明すぎるデジタルディレイでは再現しづらい効果をもたらす。しかし手元にデジタルディレイしかないなら、4kHz以上、200Hz以下をカットするといいだろう。
モジュレーション系エフェクトを使用する
コーラスなどMOD系のエフェクトは、トラックの焦点をぼかし奥に追いやる効果がある。キーボードやパッドなど奥に配置するのが自然なトラックに適用するといいだろう。
似たような効果はデュアルチャンネルのピッチシフターでそれぞれ7centほど上下することでも得られる。Roland Dimention D(あるいはシミュ)なども自然に空間を滲ませる。たとえばギターなどで、コーラスをかけたいものの奥に追いやりたくはない場合、トーンを明るめにしリバーブの量を控えるとよい。
コントラスト(対比)を活用する
奥行きは対称的なパートがあってはじめて知覚できる。これまで述べた方法で奥に配置したトラックとは別に、逆の性質を備えたパートも配置するとよい。すべてのパートを自然で明瞭にしてしまうと、手奥がガラガラで手前がやたらと混雑した音像になる。
Voを最前列に置くには
VoのReverbを最小あるいは皆無にすることで眼前で歌っているような音像ができる。完全ドライにし7-10kHz付近のブーストでAir感を出せばさらに劇的。一曲を通して用いる効果ではないがリスナーとの距離感を詰めたいセクションなどで効果的。コンプでブレスを強調することも有効。
ディレイで奥行きを作る
Voに対しては、リバーブの代わりにディレイ、あるいはディレイと少量のリバーブ、または90~110msといった長めのpre-delayを組み合わせることを検討しよう。近い音ほど明るめにきこえることから、リードVoにはEarly Reflectionが明るく明瞭な設定を使っても違和感がない。
標準的なReverbと、Early ReflectionやAmbienceを主体とするもの…この2つを組み合わせるのも有効だ。これにより初期反射と、いかにもReverb然としたトーンの2つのバランスを自由に組める。DelayはGtソロの焦点をぼやけさせることなくスタジアム演奏のようなサウンドを作りたいときにも使える。
アレンジ段階で対処する
音色やアレンジがミックス計画と矛盾しないよう検討しよう。たとえば暗めのPadよりも明るいPadの方が音像の奥に追いやるのは難しい。同様にバックコーラスがメインVoよりも明るければ前に出てきてしまう。もちろん、中には例外もある(「ラジオスターの悲劇」のコーラスなど)
しかし一般にはリスナーに最も届けたいのはメインVoだろう。バックコーラスにはリバーブを加えたり、ダブリングを加えることでメインVoよりも後方に配置しやすくなる。ドラムサンプルを使用しているなら、EQを皆無、あるいは最小にしてみよう。ドラムの音像を可能な限り大きくしたい衝動に駆られがちだが、特にそれが要求されるジャンルでない限り、自然なサウンドの方が客観的に全体を俯瞰しやすい。
EQオートメーションを使用する
Voのための空間を確保するためにGtやPadのゲインを一時的に下げるのはありがちだが、代わりに12-18dB/Octのハイカットをオートメーションでかけてみよう。
レベルオートメーションと組み合わせてもよいが、カットしていることが露骨にわからない程度に行うのがキモだ。効果を確認するときはスタジオの扉を開けて隣の部屋で聞くなどしてバランスに違和感がないかどうかみればよい。
調整は全体を聴きながら
パート毎の音作りをSoloで進めたくなることは往々にしてあるが、熟練者でなければどのパートもラウドで明るく、それぞれがまた競い合う結果になりがちだ。多くのポップスではVoが最前に位置し、Gt、メインKey、Drがそれに続き、PadやバックChoなどがそれより後方に置かれる。
まれに現れないPercなどもメインよりも後方かつ離れた位置にPANで配置できる。ザ・フー”Won’t Get Fooled Again”に顕著だが、あのパワフルなDr&Gtは思いのほか明るくなく、これによりVoがよく抜けてくる。近年の音作りにみられるように、全てのパートがガラスを切り刻めるほどに鋭くあるのは、必ずしも正解ではない。
よく聴くこと
ここまでで紹介したテクニックを自身の創作で用いる場合、アレンジ中のどの要素をどこに配置しどの技を適用するか、よく聴きながら選択する必要がある。これは実践で身につけるほか、好きな市販タイトルでどのようなテクニックが使用されているか注意深く観察することもよい訓練になる。