オートメーションによるボーカルのレベル操作がコンプに勝る理由

Q. 何時間もかけてボーカル・オートメーションを描きたがる制作者がいるのはなぜ?そのような労力を自動化するためのコンプレッサじゃなかったの?

SoundOnSound 2018年1月号掲載記事

リンク:原文

A. これはオートメーションについてよくある誤解です。
確かにコンプレッサを使えばボーカルのレベルが安定し、ミックス内での収まりもよくなります。しかし、コンプレッサが認識する信号レベルと聴感レベルには違いがあります。これが、コンプがオートメーションに劣る第一の点。

たとえば、オートメーションを描いているとボーカルがクラッシュ・シンバルにマスキングされたり、バスコンプに潰されてポンピングを起こしている場面に気付くことができます。コンプはこういった点までは考慮してくれません。

公平を期すと、最近はWaves Vocal Riderや、Homet AutoGainといった、文脈に応じてレベル調整を試みてくれる製品も中にはあります。しかし現在のところボーカル・オートメーションを一任できるレベルには至っていません。

ひとつ大きな問題は、歌詞の明瞭度。そもそも、英語を理解するプラグインはおろか、ボーカルが歌いうる あらゆる言語の内容までを理解するプラグインなんてありませんよね!?
当然、子音のヌケが文脈に対して十分かどうかはプラグイン側で判断のしようがありません。

これをヒトがオートメーションで操作するとなると、たとえば’n’の発音や、子音が変わる前後どちらか片方でも弱いと判断すればレベルを持ち上げることができます。また、特定の音がオケに埋もれてコモり気味なら、聞こえるレベルまで上げられます。言うまでもなく、現存するコンプはここまでは賢くありません。

もうひとつ言うなら、オートメションを手動で描画する作業は感性で行われるため、シンガーによるパフォーマンスを受けた上で、心地よい部分はブーストするでしょうし、そうでない部分は下げ気味にするでしょう。

より差し迫った、あるいは力強さに満ちた感じを演出したい語句は強調できますし、バラードにおける熱情感を強調するため持続音をクレッシェンドさせるかもしれません。

だいたいそのような場面で、オートメーションによる「マジック」が起こります。こんな風に聴感上の演奏技術と、リスナーの感情に訴えかける力を増幅できる場面はミックス中に頻出します。しかしこういった演出が可能になるのは、オペレータに感情があるからこそ…コンプレッサに感情はありません。

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