MetricAB大解剖

MetricAB

2018年にPlugin AllianceよりリリースされたADPTR MetricABのご紹介です。

筆者はたまにミックスも行いますが、同製品のデモを試して5分後には、すでに手放せないプラグインになってしまいました。現在ではミックス/マスタリング・セッションを新規作成したのちに、まず真っ先にMetricABをマスターバスに立ち上げています。

本エントリでは製品の概要に続き、個人的にこの製品を強くお勧めする理由についてご説明致します。

なお、以前に投稿した「TDR Limiter 6 GE徹底解剖」ほど網羅的に機能を説明するものではありませんので、タイトルは少し控えめに大解剖としました。

MetricABはなにをするプラグイン?

一言でいうと現在進行中のミックスと、既存のオーディオ・ファイル(市販曲など)を目で、耳で、比較する作業をこの上なく簡易化&効率化するツールです。

目:アナライザ類の概要

まず、音声を視覚化する機能について。
MetricABには以下のアナライザが搭載されています。そのほとんどが青色とオレンジ色で2段表示されている理由については後述します。

スペクトラム Spectrum

一般的なスペアナです。周波数帯ごとのレベルを表示します。

コレレーション Correlation

帯域ごとの左右の位相差を表示します。
マルチバンドとフルバンドが選択可能で、前者は比較的珍しいかもしれません。
グラフのY軸が高い(+1に近い)ほどその帯域がモノラルに近く、低い(-1に近い)ほど音に広がりがあることを意味します。

低域に位相差があると不必要にダブついたり、アナログカッティング用のマスターであれば最悪、針が飛びます。あるいはマスタリング中の2ミックスで、ステレオ処理により広げすぎた帯域を特定したい場合もあるかもしれません。このような事象に手っ取り早く目視で対処したい場合、マルチバンド対応のCorrelation Meterは有効です。

また、上記のようにフルバンド表示時はHistoryモードで表示されるため、時間軸による変化も目視確認できます。

ステレオイメージ Stereo Image

帯域ごとの左右のレベルバランスや広がりが表示されます。

一見すると先述のCorrelationと役割が重なる部分もあるように思われますが、Stereo Imageの方では、特定の周波数帯だけステレオ音像の左右いずれかに音が偏り過ぎていないかなどが視認できます。

これはたとえば、2つの異なるバッキング・パートを左右に振り切ったとき、それぞれが等しく配置されているかを確認する場合などに有効です。(モニタ環境によってはこれが意外と見落とされたりします。)

ダイナミクス Dynamics

音のダイナミクスです。乱暴な言い方をすればVUメータがどのぐらい動くか、より具体的にはPSR(Peak to Short-Term-Loudness Ratio)を表します。表示形式はだいぶ異なりますが、機能としてはMeterPlugs社のDynameterと非常に似ています。このメータは必要以上にマスターをコンプレッサで叩いていないか、あるいはダイナミクスの変化が曲の展開に追従しているかなどを目視確認したい場合に役立ちます。

ラウドネス Loudness

EBU R128に準拠するI/S/M値、その他レベルに関する情報を単一の画面で表示します。


このようにMetricABには多種多様なメータが搭載されているのですが、アナライザの詰め合わせとして使用するのであれば、視認性に優れた既存の代替品はいくつもあるでしょう。

先述のようにMetricABは進行中のミックス(青)と既存楽曲などを取り込んだ音声ファイル(オレンジ)を簡単に比較できることにこそ真価があり、2つのグラフも並べてリアルタイムで比較することが可能です。

耳:Playback Samplerとしての機能

さて、ここまでに紹介したメータ類も大変有用ですが、MetricABの目玉はなんといっても丸く大きなA/Bボタンでしょう。

上記の丸いボタンが青色のときはバスの音声(作業中のミックス)をスルーし、オレンジ色のときは16あるスロットに読み込んだ外部音声ファイルのいずれかを任意に選んで出力します。また、この2つのソースの切替はボタンをクリックするだけで瞬時に行われます。

当方を通じて海外Tips集をご覧の方々は、リファレンス音源と聞き比べながらミックス/マスタリング作業を進めることの重要性が頻繁に言及されることにお気づきかもしれません。これはネット上に限らず、ミックスに関するハウツーを網羅した洋書を紐解きますと、けっこう高い割合で既存タイトルとの比較をこまめに行う重要性や、Myリファレンス・ライブラリの構築方法が解説されているのを目にします。

過去には、かのSteven Slate氏もこのようにおっしゃっています。

ところが、専用ツールを使わずにこのような比較を行うのは実際のところ面倒です。たとえばDAWにリファレンス曲を読み込むためのトラックを準備する場合、複数の音源を並べるのが面倒です。また、プロジェクトのトラック数が多くなってくると音源を置いたトラックのMute/Soloボタンまで画面を繰るのが面倒でしょう。既存曲のサビだけを参照したい場合、ループを作るのが面倒、そもそもインポート前にサンプル・レートの変換が必要、etc…なにかと手間がかかります。

あと細かいことですが、これらの問題を回避せんと別のアプリケーションを同時に立ち上げてリファレンス音源を読み込む場合、オーディオインターフェースによってはDAWとドライバを奪い合い、うまくいかなかったりします。

いずれにせよ、たかだかソースの切り替えのために複数の手順を要します。

MetricABは、これらの問題を一掃します。
メータを兼ねているので、画面に立ち上げっぱなしにしておきボタンひとつでソースを切り替えられます。リファレンス音源は16本まで読み込み、それぞれにDAWとは独立したループポイントを設定できますので、たとえば

  • スロット1の音源はいつでもサビが聴けるよう当該範囲のみループさせる
  • スロット2の音源はリミックス前の同一曲なので、常にDAWと同期させる

という設定も簡単に行えます。

個人的には同じ作者による旧作MagicABとは異なり、FLACの読み込みに対応しているのもありがたいポイントです。

このようにMetricABは

とにかく至れり尽くせり。
目で見るにせよ耳で聴くにせよ、A/B比較がこの上なく簡単かつ手軽になりますので、今後ミックス中にリファレンス・チェックをサボる口実がなくなります。(めんどくさがって毎度あとで後悔していたのは私だけですかね…)

ミキシングを行う際、毎日勝手知ったるシステムでお仕事をされている方ならばいざ知らず、そうでない場合は得てして、絶えず狂い続ける聴覚のバランス感覚との闘いになります。それを極めて少ない負担で排除できる、実に強力なツールだと思います。

というわけで、ピンときた未体験の方は、騙されたと思って一見地味なこの製品をぜひ一度お試しください。たかだかミックス補助のツールとしてはやや高額に思われるかもしれませんが、皆が使っているというだけの理由で定番のエフェクトバンドルを購入するよりは、案外このようなツールで自分のミックスを客観的に評価しつつDAW付属のエフェクトで頑張る方が、上達は早いかも知れません。セール価格で入手できればベターではありますが、そうでなくとも遅かれ早かれ、持っていて良かったと思える日が来ると断言できるほどに自信を持ってお勧めします。


最後に…
なんとなく凄そうだけど、そもそもメータの使い方や用語がワカラナイヨー
という方は、詳しい解説を含む入門書PDFが無料公開中ですのでご覧になってみてください。

1 Comment

  1. […] 当ブログ記事よりよっぽど詳しく丁寧に解説しているので、Vocal-edit.comさんの「MetricAB大解剖」を是非読んで見て下さい。 […]

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