Soundtoys EchoBoy機能解説

Soundtoys社のディレイ・プラグイン EchoBoy の機能解説です。
本エントリでは同製品の機能を網羅的に紹介するわけではございませんが、GUIを一見しただけでは自明でない機能や動作など、英文マニュアルを熟読しないと気付きにくいかもしれないと感じた点をご紹介致します。

解説前に…ディレイのお話

空間系の処理から飛び道具的なエフェクトまで「ディレイ」は長年業務スタジオにおいて重要な役割を果たしてきました。

古典的なものではテープの記録ヘッドと再生ヘッドの距離を利用したテープ・エコーにはじまり、BBD(バケツリレー素子)と呼ばれる集積回路の登場により、短時間ながらアナログ・ディレイを可能にした製品も登場しました。

メモリが安くなってからは信号のサンプリングを行うデジタル方式の機器も増えましたが、ディレイに関しては必ずしも信号がクリーンな方がいいわけではなく、テープやバケツリレー素子を用いる副作用による音質変化が味となったり、なにより元信号によくなじむと言われています。ビンテージ機器のディレイが、現在もボーカルのスラップ・バックなどに好んで使用されるのも、そのためかと思われます。

…ここまでは、だいたいEchoBoyマニュアルの冒頭部分の要約になります。

誤解がないように申し添えますと、上記はなにもレトロ感やビンテージ感を演出することを礼賛するわけではなく、どちらかというとアナログ回路がもたらす元信号との違いが、手っ取り早く立体感のあるミックスを作る上で効果的ではないか、というお話です。

ですので露骨なスラップ・バックやダブっぽいディレイなど、特定の時代や作風と結びつくような使い方をするならともかく(もちろんEchoBoyはそういったものものも得意ではありますが)空間系ツールとして薄くディレイを使用する場合でも、古典機器の特性を手軽に再現できる製品の選択は、ワークフローを効率化する上でも理に適うものと考えられます。

Echoboyは、開発者の考える「各時代の定番機器が好まれたポイント」を瞬時に呼び出せる造りになっています。特定のビンテージ機器の回路をモデリングしているわけではなさそうですが、後述するようにいくつかのアルゴリズムの特性を決める際に参照したテープマシンやディレイマシンは名指しで登場します。

ご存じのように、Soundtoys製品を開発したのは、多くの業務スタジオでハーモナイザーのデファクト・スタンダードとなったEventeide H-3000の設計に携わった人物です。
長年愛されたスタジオ機材、はたまた歴史に淘汰されてしまった機材…それらが商用スタジオでどのように活用されていたかを熟知しているであろう開発者が、真に戦力となる機能を集約したプラグインとして本製品を”Ultimate Echo Machine” (究極のエコー・マシン)と呼ぶことからも自信のほどがうかがえます。

筆者自身、個人的にお付き合いのあるキャリア数十年のエンジニアさんでEchoBoyをメインのディレイとしてお使いの方を何人か知っていますし、私見ではありますが実際ボーカルなどに使ってみると「なんとなくスグなじむ」ように感じます。

機能解説

以下、製品マニュアルに目を通して初めて理解できた点を列挙します。
また、むしろ触っただけでは気付きにくい点をMMW度(ニュアルんとからんわぃっ!度)として5段階で示します。


SATURATIONノブの挙動について

MMW度:★★☆☆☆

選択中のSTYLEによって、どのように歪むか(どのような倍音が発生するか)だけでなく、リミッティングの掛かり方も異なります。STYLEによってはほとんど変化が現れないものもあります。


INPUT/OUTPUTノブについて

MMW度:★★★★★

黄色のLEDがクリップまで6dBのレベルを示します。また SATURATION同様に、 選択中のSTYLEによってINPUT/OUTPUTノブの音質への影響も異なります。

さて、以下はマニュアルにも記載がない(マニュアル見てもわからん)ことですが、DDMF Plugindoctorでの挙動を見る限り(音は聞いていません)STYLEによっては歪みの量などがプラグインの最終出力レベルでのみ決まるものもあるようで、選択肢によってはOUTPUTを十分に下げればINPUT側の赤色LEDが灯いても直線性が維持されるものもありました。

INPUT/OUPUTで音作りをする際は、先入観を持たずに耳を信じる必要がありそうです。


ECHO STYLESについて

MMW度:★★★★☆

エコーの質感を選択します。
GUIには記載がありませんが、全31種類のうち多くが実機をモデルにしています。

ECHO STYLEはすべてユーザ操作可能なパラメータの組み合わせで作られたプリセット集のようなものですので、厳密に実機をモデリングしているというわけではなさそうです。

  • Master Tape – テープコンプと歪。Soundtoys社にあるATR-102@30ipsの特性を再現
  • Studio Tape – 同じくATR-102@15ips
  • EchoPlex – EP-3テープエコーを再現
  • Space Echo – Roland RE-201を再現。ウォームかつザラザラ。ダブ/レゲーに
  • Tybe Tape – モダンなテープエコーを再現。ハイミッドとディストーション
  • Cheap Tape – コンシューマ向けテープを再現。明るいコンプサウンド
  • Memory Man – 帯域の狭いコーラスエコー。Electro-Harmonix Memory Manを再現
  • DM-2 – Boss DM-2を再現。BBD方式の典型。ウォーム、レゾナンス大、パンチィかつクリーン
  • TelRay – Tel-Ray社が1960年代に製造したAdineko oil-can delayを再現
  • Binsonette Echo-Rec, Echo-RecIIインスパイアのSoundtoys謹製STYLE。ギター/鍵盤に
  • Telephone/AM Radio/FM Radio/Shortwave – そのまんまなので割愛
  • Transmitter – CB無線の特性を再現
  • Digital Delay – クリーンなディレイ。ビンテージ感などは不要なシチュエーションに
  • Analog Delay – 70年代、80年代にありがちなラックマウント・ディレイ機器の特徴を再現
  • Digital Chorus – ’80年代風デジタルコーラス。当時の技術制約はあるものの、それが反ってイイ感じ
  • Analog Chorus – ウォームなコーラス
  • CE-1 Chorus – BOSS CE-1 Chorus Ensemble pedalを再現。ギターに
  • Vibrato – ビブラート。鍵盤/ギターに
  • Saturated – 極端に歪ませたテープの特性を再現。ボーカルやドラムに
  • Fat – チョーWarmなディストーション・エコー。ギターのほか、分厚いエコーで取り囲みたいパートに
  • Distressed – 強度のコンプで歪ませたエコー
  • Limited – リミッタを内蔵。高めのフィードバックに
  • Distorted – チョー歪む
  • Queeked – 一風変わったマルチバンドコンプ
  • Ambient – ディストーションとディフュージョン。高めのフィードバックやソロに
  • Diffused – アンビエント、あるいはリバーブ風のエコーに
  • Splattered – 反射音が強め
  • Verbed – リバーブ風。Feedback/Saturationの設定で大きく音が変わる

PRIME NUMBERSスイッチについて

MMW度:★★★★★

ディレイが等間隔だと、特に短いTIME、高めのフィードバック設定のときに同じ周波数が重なりレゾナンスが生じやすくなりますが、これを回避するために微妙にディレイタイムをずらす機能です。

さて、ここからはマニュアルにも記載がありませんが…上記の説明だけ聴いてなまじ理屈がわかると、なんとなくこのスイッチは常時入れっぱなしの方が手軽に音の濁りを解消できそうですが、グルーヴに影響するほど露骨に発音タイミングに影響することもあるので注意が必要です。


LO CUT/HI CUTについて

MMW度:★★★★☆

STYLEによって挙動が変わります。


Grooveノブについて

MMW度:★★☆☆☆

SHUFFLEに寄せると突っ込み気味、SWINGに寄せるとレイドバックな感じになります。
ただしこれはすべてのディレイタップに作用しません。グルーヴ・クオンタイズに近い機能であり、筆者が試したところ、簡単なパターンではオンビートのタップは影響を受けないことがありました。


FEELノブについて

MMW度:★★★★☆

前述のGrooveノブがリズムパターンを考慮するのとは異なり、こちらはすべてのタップを前後に移動させます。


MODEノブについて

MMW度:★★★★☆

ディレイユニットの構成を4種類から選択します。

ここでは筆者が個人的に紛らわしいと感じた、”DUAL ECHO”と”PING-PONG”の違いについて述べます。(特にボーカルにEarly Reflection的なアンビエンスを添える目的で使用するにあたり、はじめなかなか思い通りのステレオ効果が得られず苦労しましたので…)

Dual Echoは、その名のとおりSINGLE ECHOと同じものを2ユニット並列に設けたものです。

PING-PONGも”PING”と”PONG”、2つのディレイ・ユニットを備えていますが、タイム設定に拘わらず、必ずPING側(左ch)が先に鳴る仕組みになっています。また、PONG側(右ch)のディレイタイムは、PINGが鳴り始めた後の時間からカウントします。
つまり、原音の15ms後に左チャンネル、30ms後に右チャンネルからディレイを返したい場合、それぞれのタイムは15,30msではなく、双方15msと入力する必要があります。


WIDTHノブの挙動について

MMW度:★★★★★

これは選択中のMODEによって異なります。
DUAL ECHO, PING-PONGなど2つのユニットを備えたモードではやや自明ですが、特にSINGLE MODE時のWIDTHとはなんぞや?とはじめは疑問を覚えました。

これはL/R Offsetで左右チャンネルのディレイタイムにわずかな差を生じさせたとき、あるいはSTYLEの詳細パネルにあるDiffusion、Wobbleの2つのパラメータに影響を受け、モノラルディレイながら広がり感の調整に使えます。

これについて、いくつか注意点があります。

まず、L/R OffsetもPRIME NUMBERスイッチ同様、あまり上げすぎるとグルーヴに影響します。もう一点、どのようなテイストで音像が広がるかは選択中のSTYLEによって異なります。

さらに、Dual EchoモードおよびPING-PONGモードにおいては、WIDTHが3時の方向を過ぎて以降は左右チャンネルに逆相成分が生じます。スピーカの外から音が聞こえる効果が生じ始めるため、モノラル互換性を考慮する場合などは注意が必要です。
(3時以降に逆相成分が生じる挙動について、PING-PONGモードに関してはマニュアルに記載がありましたが、Dual Echoも同様であることは筆者自身が確認しました。

以前に少しだけWIDTHで遊んでそれきりの方は、異なるSTYLEやMODEで改めて試されると新しい発見があるかもしれません。


ACCENTノブについて

MMW度:★★☆☆☆

12時の方向を基準に、+方向に回すほど奇数番目のタップを強調し、-方向に回すほど偶数番目のタップが強調されます。表、裏拍のいずれかを強調したいときに便利です。


FB MIXノブ(Dual Echo Mode時)について

MMW度:★★★★☆

Dual Echo Modeにおける2つのユニットのフィードバックループは、デフォルトではそれぞれに独立しています。このノブを上げることで、互いのユニットにフィードバックする信号量を決定します。12時の方向に設定すると、ディレイ信号は2つのユニットに等しくフィードバックされます。完全に右に回し切ると、各ユニットのディレイ信号は、もう一方のユニットにのみフィードバックされます。


FB BALノブ(Dual Echo Mode時)について

MMW度:★★★★☆

メインのFEEDBACKノブは、両ディレイユニットに等しく作用しますが、2つのディレイユニットそれぞれのフィードバック量を変えたいときに使用するのが、このFB BAL(Balance)ノブです。これは特に、各ユニットのディレイタイムが大きくことなるときに体感音量を揃える上で有効です。


RHYTHM ECHO MODEのタップ編集について

MMW度:★★★★☆

このモードの選択中、ディスプレイに緑のバーを描いて各タップのタイミングや音量を操作できますが、その際に使えるキー・モディファイアがいくつかあります。

1.タップの削除
Ctrlキー(MacではOption)を押しながら既存のタップをクリックします。

2.タップをグリッド外に設置
一旦配置したタップはドラッグ可能ですが、移動先はグリッド上である必要はありません。Shift(MacではCommand)キーを押しながらタップをドラッグすることでタイミングを微調整することが可能です。


SHAPEノブについて

MMW度:★★☆☆☆

各タップのレベルに非破壊の変化を加えます。
また、この変化のパターンはノブの真下のメニューより選択できます。
複数のタップを等間隔に並べてからノブを上下させると効果がわかりやすいでしょう。
マニュアル26,27pに各パターンの図があります。


黄色のタップについて

MMW度:★★★★☆

RHYTHM ECHOモードのグリッドのゼロ位置(左端)に配置したタップは、自動的に黄色で表示されます。これはドライ信号と完全に重なるので「発音はされないもののフィードバックループには送られる」信号であることを意味します。タイミングをわずかにでも後方にずらすとタップは緑色に変わり、ディレイとして発音されることがわかります。


DIFFUSIONのLOOP/POSTスイッチについて

MMW度:★★★☆☆

Diffusionは、ディレイから出力されるタップを「濁す」機能です。
Loop/PostスイッチはこのDiffusionを、これをフィードバックループに接続するか、最終出力段に配置するかを選択します。前者の場合、高めのフィードバック設定のときはディレイが繰り返すたび音が徐々に不明瞭になりますが、後者の場合はすべてのタップが等しく濁ります。


WobbleセクションのSYNCノブについて

MMW度:★★★★★

Wobbleは、再生速度が不安定なテープやレコードのようにピッチに揺らぎを加える機能です。SYNCノブが12時の方向を指すとき、左右チャンネルのフィードバックループには等しく揺らぎが加えられます。
このノブを左に回すほど、左右チャンネルの揺らぎは独立した動きになります。
右に回した場合、左右チャンネルの揺らぎは同期しますが、逆方向に作用します。つまり片方のチャンネルの再生速度が速い(ピッチが高い)状態のとき、もう一方のチャンネルは再生速度が遅い(ピッチが低い)といったように、対称的な動きをします。


わかりにくいと感じた機能解説は以上です。
リクエストがあれば、他の機能も追記致します。


EchoBoyの弱点?

余談ながら…一部機能をご紹介するついでに讃辞を並べてすっかり持ち上げてしまいましたので、当ブログらしく、ダメなところ…というほどではありませんが、EchoBoyが使いにくいと感じた場面をひとつ正直に書いてみます。

同製品にはディレイのリズム・パターンを細かく設計する手段としてRhythm Echo Modeが備わってはいますが、個々のタップの自由度となると、できることは他の製品に比べるとやや限定的です。たとえばPANやフィルタを細かく調整したいのであればPSP 608DD16 Tekturon といった製品の方が素早く目的の音を得られるかもしれません。

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