製品レビュー:Pro-G by FabFilter

ゲート/エキスパンダー・プラグイン、FabFilter Pro-Gのレビューです。

正直に申しますと、今回の製品をブログで取り上げるべきかどうかは、普段以上に検討を要しました。

同じダイナミクス・プロセッサでも、コンプレッサは常に各所で話題になっているのに対し、ゲート/エキスパンダー類の評は見た記憶がありません。実機をモデリングしたチャンネル・ストリップにおいても、EQやコンプセクションばかりが注目され、SSLコンソールのようにゲート/エキスパンダーが一時代のドラム・サウンドを築いたはずの製品においてさえスルーされます。

皆様がどの程度この手のツールをお使いなのかのか、そもそも品質や利便性など求めているのか、(あるいはPro-Gがすでに行き渡っているので話題に上らないのか)皆目見当がつきません。

しかし、いまさらながらPro-Gを導入し、なにかと感心する点がありましたので、どこかの誰かのお役に立つことを願いながらこのエントリを綴ることにしました。


Pro-Gに触れて興味深いと感じた点はいろいろありますが、とりあえずひとつだけ申し上げるなら

ゲートはエンベローブを激変させたりバタついたり、ときには扱いづらいもの…と思っていらっしゃる方にこそ、本製品の「Clean」モードを試していただきたい!

ということです。

モデリング系のエフェクトに触れていると、たびたびClassic(あるいはVintage)モードとModernモードを切り替えらえる製品に直面します。たとえば近年入手したものでは Eventide SP2016 Reverb などがそうですし、AnalogボタンやTHDツマミを搭載するあらゆるモデリング系プラグインがこれらに分類されるでしょう。
この手の選択肢による変化が明らかであっても、トラック単体で聴いたときの差異がミックス全体にとってどの程度プラス、あるいはマイナスに作用するかは、特にミックスの初期段階では判別が難しい場合もあり、よく悩まされます。

Pro-Gが提供する6種類のStyle(アルゴリズム)にある「Classic」と「Clean」を最初に見たとき、たかだかゲートで同じような選択肢に惑わされるのではないかと一瞬不安になりましたが、実際に触ってみるとそのコンセプトの明確さが瞬時に理解できました。

Classicモードは、コンソールのゲートにありがちなように、わりとドラスティックにエンベローブを変化させます。これはドラムの各マイクのエンベローブ(アタックやサスティーン)を大きく変えたり、やや古風ではありますが派手なゲート・リバーブサウンドを作りたいときには大変有効です。

半面、このようにキレがいいと、単純なノイズ・ゲートとして使いたくてもエンベローブの変化が大きく、特に音の切れ際などの自然さを保つ設定を詰めるにはひと手間かかる場合もあります。結局、DAW上のクリップを分割してフェードを描くなど、手作業で目的を達成する方に切り替えた経験のある方もいらっしゃるかもしれません。そういう苦い経験に覚えがあり、またゲートなんてそんなものだろうと割り切ってしまった方にこそ、Pro-Gの「Clean」アルゴリズムを一度試していただきたいと思います。

「Clean」Styleは、ゲートの高速な開閉による歪みや不自然なレベル変動を、可能な限り排除することを目標に設計されたアルゴリズムです。従来のゲートのようにドラム・サウンドを激変させるようなキレはありませんが、その代わりにノイズ・ゲートとしては安全に使えるようになっています。かといって無機質なわけではなく、サウンド・メイクにも十分使える適度なスムーズさを兼ね備えています。

前述の「Classic」「Clean」Style以外には「Vocal」「Guitar」というアルゴリズムも用意されており、その名が指すとおりフレーズ間のノイズを切りたいときに向けて、それぞれの楽器のエンベローブを考慮したチューニングがなされています。特に「Guitar」は、ディストーションに送る前の低域カットに適しているとされています。

なお、Styleの最後の2つである「Upward」「Ducking」は、それぞれ上方エキスパンダ、ダッキング・ゲートとして動作し、基本的には下方エキスパンダーとして動作するほかの4つのスタイルとは挙動もパラメータの意味も異なります。しかしながら、いずれも動きはスムーズです。

おそらく、内部でなされている処理はAIを使ったような大層なものなどではなく、わりとシンプルに、しかしアナログでは難しいような条件分岐を行っているものと思われます。しかし、それだけでも十分にユニークであり、デジタル・ゲートとしてはかなり完成されているように感じます。

明確な意図をもって使用すべきユーティリティ系のツールではありますので「音楽的」と形容すべきかは悩ましいところではありますが、DAW付属のゲートでは得難い、スムーズかつ使える音であるのは間違いありません。筆者自身はEDMなどのようにミックスとアレンジの境界があやふやなジャンルを扱うことはありませんが、ダンス・ミュージックに典型的なダッキングにおいてもPro-Gが使われているデモを度々見かけた理由がわかったような気がいたしました。

筆者自身、前述のようにゲートに裏切られ、最終的には手作業でクリップを切ったり-∞dBへのフェードを描いたりしたことが何度もあります。これまでノイズ切りや、サイド・チェインを使ったダッキング(一般的なミックスでも薄く多用します)、メトロノームをトリガーにしてオーバーコンプされた4ツ打ちを蘇らせる…こういった用途にはDAW付属のゲートやUnfiltered Audio G8を主に使ってきましたが、今後は下方コンプ以外のダイナミクス処理を必要と感じた際には、まず第一にPro-Gに手が伸びることになるものと思います。

最後に、難点について。
操作性自体はFabFilter製品だけあって大変良好ではありますが、ヴィジュアル・フィードバック周りにはいくつか改善を望みたい点があります。
まず、レベルのBefore&Afterをレベルのプロットとピーク・メータでレイヤー表示しますが、カラースキームのせいでBeforeの視認性にやや難があるように感じます。また、この手の製品はゲイン・リダクションを示すグラフのある方が直感的に操作しやすいように思うものの、これも不在である理由がよくわかりません。同社の他製品のように、今後Pro-Gもバージョンアップすることがあれば、これらの改善には期待したいところです。

まとめ

長所

  • 幅広いゲート/エキスパンダーのニーズに対応
  • スレッショルド付近でバタつかない、スムーズなゲートとしては唯一無二(筆者の知る限り)
  • 操作性は他のFabFilter製品同様、大変良好
  • UIは見通しがよく、いまどきのユーティリティ・ツールに期待される視認性はほぼクリア。(Style 6種の解説以外はマニュアルも不要なレベル)

短所

  • ヒステリシスは固定なのでコントロール・フリークには少し物足りないかも
  • ゲイン・リダクションの量を示す計器の視認性は改善の余地あり

代替品

少数派とは思いますが「試用したけどむしろClassic Style的なゲートだけで十分」という方は、多くのDAWに付属のゲート、あるいは味が欲しければbx_consoleといったチャンネル・ストリップに内蔵されたGate/Expander、さらにお金がなければUnfiltered Audio G8あたりが候補に挙がるかと思います。

購入はコチラ
FabFilter / Pro-G

Scroll to top