製品レビュー:Eventide SP2016 Reverb Plugin

リバーブ・プラグイン、Eventide SP2016 Reverb Pluginのレビューです。
本製品は2018年の登場以来、筆者が気に入って常用しているものですので、普段以上に熱の入ったレビューになることはあらかじめご容赦ください。

製品概要

本製品は、Eventideが1983年にリリースした、ハードウェア・ユニットを再現したリバーブ・プラグインです。

アルゴリズムは実機にあったRoom、Stereo Room、Plateの3種のに加え、それぞれを現代風にアレンジしたModernモード3種を搭載しています。

また、パラメータは非常に少なく、EQやMIXといったユーティリティ的なものを除けば、わずか4つしかありません。
しかし後述するように、実はこのシンプルさこそが本製品の最大の強味であるといえます。

リバーブの用途

唐突に一般論を述べますが…リバーブには多彩な用途があります。
なんとなくリバーブといえば「広がりや奥行を演出するもの」というイメージがありますが、その限りではありません。

1.奥行き(距離)の表現

リバーブにより残響を加えることで、ステレオ音像が再現する立体空間の、どのあたりに楽器が配置されているかを演出できます。ただし、これは案外難しいものです。リアルな空間を演出するためには、原音との遅延や帯域など、距離を知覚させる様々な情報に矛盾がないよう注意を払う必要があります。 やみくもに残響を加えると、原音を濁すばかりで距離感は表現できません。

(かつて単体のGM音源からDTMに入った筆者のように、距離感は単純にリバーブへのSEND量で決まると勘違いしていた方は他にもいらっしゃいます…よね?)

2.空間の演出(ステージング)

演奏パートが、どのような空間に存在するかを演出します。これは前項「奥行きの表現」と一見似ていますが、やや異なります。

たとえば、ボーカルが「前方3メートルに立っている」いう距離感が同じでも、それを取り巻く環境は様々です。舞台となる空間は、ボーカルとリスナーの緊密さを演出するためのデッドな小部屋かもしれませんし、雄大さを感じさせる広い空間かもしれません。はたまた超常的な空間かもしれません。

3.色付け

リバーブは、ともすれば生々しすぎて面白みに欠ける音に、色や陰影を付けることにも使えます。
どちらかというとPlateやSpring系のリバーブがこの用途に適しているかと思います。

4.タイミング操作

不必要にコマ切れに聴こえるボーカルに余韻を加え、フレーズ間の接続が流れるようにできます。
あるいは、パーカッション、リズムギターなど、リズム楽器に対し短めのDecay、長めのPre-delayによるリバーブでゴーストノート的な音を加えることでグルーヴを強化することが可能です。同じ目的でDelayエフェクトもよく使用されますが、リバーブの方が目立ちすぎず、空間になじむことがあります。

使用感

さて、Eventide 2016 Reverb Pluginに戻ります。
筆者が思うに、先に挙げたリバーブの各種用途の中でも、SP2016 Reverbは「1.奥行きの表現」でこそ真価を発揮します。

残響特性に関する4つのパラメータの中でも、鍵はPOSITIONパラメータにあります。
上下端はそれぞれFront/Rearとなっており、これを変化させるだけで面白いように音が仮想空間の奥に引っ込んだり迫ってきたりします。しかも、近年増えてきたような位相操作により立体感を作る製品とは異なり、モノラル・バランスも重視した、良い意味で昔ながら空間演出になっています。

おそらくこのPositionパラメータは、初期反射と後期反射のバランスを中心に、ほかの製品でいうところのDensity、 Diffusionまた後期反射にフィードバックする初期反射の量などを一括操作しているものと思われます。

ユーザがどのように設定しようとも、消え際まで自然で美しい残響を創出するよう設計した…とは、マニュアル冒頭におけるメーカの弁ですが、誇張はないように感じます。

先に少し触れたよう、リバーブによりリアリティのある奥行を作るのは、実はけっこう面倒です。
音源との距離により変化する初期反射の割合、反響の分布、周波数バランスなど…これらはある程度の経験、またリアルな空間における反射音をイメージする想像力がないと、どこかで破綻し、非現実的な残響となります。聞いたときにしっかり「奥行として知覚できるリバーブ」を作ることは、単純に「ミックスになじむリバーブ」を作ることとはまた異なる難しさがあります。その点、SP2016はフェーダひとつで迷うことなく破綻のない距離感を演出することができます。

未体験の方は、ぜひこの洗練されたPositionパラメータをお試しいただきたいです。その際には単体のトラックではわかりにくいかもしれませんので、ピボットとなるドライなトラックをもうひとつ配置し、距離感の変化をお楽しみください。

筆者自身がよく使う手順としては、音像の奥に追いやりたいパートが生じたとき、まずはSP2016を挿し、Positionを調整し、おおよその距離が決まるとミックスになじむように内蔵EQを調整します。このEQも大変利きがよく、混雑したミックスを濁したくない場合のLow/Hi操作もすぐに手が届きます。リバーブの後段にわざわざ別のEQを立ち上げる必要がありません。
その結果、ハマるかはまらないかの判断も素早く行えますので、違った場合は他の手段を試します。しかし多くの場合、SP2016がそのままAUXバスに残ります。DecayやPre Delayの調整はその後に行います。

アルゴリズムについて

最後に、実機を再現したアルゴリズム3種(これらはVintage系アルゴリズムとされています)と、プラグインならではのModern系アルゴリズムの違いについて。

マニュアルによると、2つのカテゴリではビット深度が異なるとされています。内部演算か出力のことかは不明ですが、おそらくその両方ではないかと思います。

また、Vintageアルゴリズムの使用時は15kHzから上が緩やかにロールオフしていることがスペアナから読み取れます。

同じDecay設定では、Modernの方がゆるやかに後期反射が堆積していく様子がうかがえます。Combフィルタ感が少ないことから、おそらくフィードバックループに対して、オリジナル製造時以降に考案された、あるいは当時の演算速度やメモリ容量では困難であった処理を行っているものと想像します。Plateに関しても同じ傾向がありますが、こちらはVintage系アルゴリズムでは無効になっていたDiffusionおよびPositionのパラメータがModernアルゴリズムでは有効になることから、一概に比較することはできません。

2016 Stereo Roomと比べて

ネーミングが非常に紛らわしいのですが、SP-2016のRoomアルゴリズムのみを再現した製品”2016 Stereo Room” は以前より同社が販売していました。こちらはいまとなっては、サウンドも「数世代前のアルゴリズミック・リバーブ」という感があります。筆者は以前からこちらも所有していましたが、実のところあまりしっくりきたことがなく、実戦に投入した覚えがありません。

最後に

昨今のJ-popのようにオケが厚く、音像にリバーブなど挿む余地がないようなトラック制作を中心にされている方には、SP2016 Reverbは、さほど使いでがないかもしれません。(というより、何を使ってもさほど変わらないかもしれません)
その限りではなく、比較的少ない音数でステレオ音像における空間演出を模索されたい方にとっては、2016 Reverbは道具箱に加えておく価値のある逸品と思います。

「三十ン年間スタジオで愛されたモデル」という売り文句が醸すビンテージ感に惑わされないようご注意ください。
SP2016のサウンドは後に現れることになるImupulse Response方式などとは違い、メモリも演算速度も非力であった時代に、職人が「使えるリアルなアルゴリズミック・リバーブ」を追及して手作業でカリカリにチューニングしたものです。
尖ってはいるけど悪い音の作りようがない、そして長年スタジオで愛された本機ならではのステレオ空間をご堪能ください。


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