製品レビュー:Positive Grid BIAS AMP2/FX2

Positive Grid BIAS AMP2/BIAS FX2についての、購入者向けガイドともレビューとも雑感ともつかないブログエントリです。

数ヶ月前に同社Platinumバンドルを購入し、以後愛用しています。

お恥ずかしながら、エレキギターについては演奏技術も大したことがないためちょっとしたバッキングを録ったりする程度にしか使用しておらず、また過去にライブハウスに出入りしていた頃はもっぱらJC-120を使っていたこともあり、ギターフリークの皆様に比べるとあまり踏み込んだ紹介をする言葉をもちません。比較対象もGuitar Rig5をはじめ、Plugin Allianceのいくつかの製品と、やや限定的であることはあらかじめ白状しておきます。

使用感や競合製品との比較は他にも多数の個人ブログがございますのでそちらに譲りまして、本稿では筆者が製品購入までに理解しづらいと感じた2製品(BIAS AMP2/ BIAS FX2)の違いやエディション間の比較、特徴的な機能の紹介をいたします。また、後半には所感をまとめてみました。

導入にあたり、かつての私と同じように迷われている方のお役に立てば幸いです。

製品概要

BIAS FX2、BIAS AMP2は、ともにギター/ベース用のアンプ・シミュレータです。

いずれもプラグイン、およびスタンドアロン形式で使用でき、スタンドアロン版は楽器をオーディオI/Fにライン接続してすぐに音を出すことができます。

各製品には、次のような違いがあります。

BIAS AMP2

BIAS AMP2

BIAS AMP2は、ギターアンプやキャビネットにフォーカスしたシミュレータです。エフェクター類は基本的なノイズゲートとリバーブ に限定される代わりに、アンプ部分の調整に関しては偏執的ともいえるほどに細かいパラメータに手を加えることができます。

アンプとキャビネットの組み合わせを変えるだけでなく、プリアンプ、トーンスタック(EQセクション)、トランス、パワーアンプなどなど、各モジュールを実機をモデルにした各モジュールから選択して自由に組み合わせられます。

ここまでは他社製品も類似の機能を提供しますが、BIAS AMP2が独自性を発揮するのはここからです。それぞれの各モジュールについて、通常は知識も手間も要する真空管の交換や、トポロジー(回路の構成方法)の変更、その他細かな調整までも1クリックで行えます。

BIAS FX2

BIAS FX2

BIAS FX2では、エフェクターとアンプを任意に組み合わせて、演奏用のペダルボードを自由に組むことができます。無数にあるペダル式のエフェクターは、ほとんどがどこかで見たことがあるものばかりです。

それ以外にもラックマウント型のスタジオ機器を模したエフェクターもあり、こちらはキャビネット以降の音作りに活用できそうです。
一方、アンプ周りの設定はフロントパネルにあるノブ類とマイキングの設定に限られ、BIAS AMP2のようにアンプのフタの開閉を必要とするようなパラメータにはアクセスできません。

また、BIAS FX2はライブでの使用も考慮した造りになっており、出力音をどのように扱うか…たとえばそのままラインで卓に渡すのか、あるいは実物のアンプに接続するのか…などによって、不要なモジュールを自動的に無効にする機能も備わっています。

本物のパワーアンプに接続して使用するよう設定を変更したところ。プリセット中のパワーアンプ、およびキャビネットのエミュレーションが自動的に無効になりました。

各製品の統合について

BIAS AMP2でカスタマイズし、プリセットとして保存したアンプは、BIAS FX2でも呼び出すことが可能です。ただし、BIAS FX2で読み込んだ際にアクセスできるパラメータは、トーンスタックのEQや基本的なドライブなど、フロントパネルから制御できるものに限られます。

よって、両製品を所有していれば全パラメータにアクセスすることが可能ではありますが、たとえば「BIAS FX2でライブの準備中に真空管を取り替えたい」といったケースでは、両アプリケーション間を往復するしかありません。

単一のアプリケーションから全パラメータを操作できる造りにすることは、理屈上ではできない理由がないように思われますので、両製品を所有するユーザのためにも今後のアップデートに期待したいところです。

エディションごとの違い

BIAS AMPとBIAS FX、それぞれ複数のエディションが存在する上に、バンドルを選ぶとなると、さらに選択肢が増えます。Positive Gridのサイトを隈なく探せば必要な情報は得られますが、それも分散しており、お世辞にも見通しが良いとはいえません。

そこで、おおまかな違いをまとめてみました。

BIAS AMP2のエディション

BIAS AMP2には、Standard、Pro、Eliteと3つのエディションが存在します。

Standardエディションでは、選択できるプリアンプ/パワーアンプがStandardの1種に限定されます。それなりにオールラウンドではありますが、個々のジャンルに特化したプリアンプ/パワーアンプ…言い換えると、実機をモデルにしたモジュールを使用するには、ProまたはEliteが必要になります。また、Standardにはベース関連のモジュールは付属しません。ベースアンプ・シミュとして使いたい場合も、まずStandardは選択肢からはずすことになるかと思います。

Eliteエディションにのみ、世界的な老舗ドライバーメーカCelestion謹製のキャビネットIRが付属します。同じIRをCelestionから直接購入してProエディションで使用することも可能ですが、その場合は単体のIRファイルを個々に読み込む必要があります。これに対し、Eliteに付属するCelestionキャビネットはBIAS AMP2とより密に連携できるように統合されており、選択したマイクやマイキングの設定に応じて自動的に切り替わるようになっています。別段IRを使用していることを意識する必要がないため、操作性においては圧倒的な利があります。

BIAS AMP2エディション比較ページ

BIAS FX2

BIAS AMP2の方がエディションによって備える機能の違いが明確であったのに対し、BIAS FX2のエディション間の違いは、単純に物量の違いである印象を受けます。

選択できるアンプ、エフェクター、Guitar Match(後述)それぞれの数が、エディションによって異なります。

BIAS FX2製品比較ページ

その他の機能

その他、以下の特徴的な機能があります。

Guitar Match (FX2)

Guitar Match機能

エレキギターの音を、まったく異なるタイプのギターに化けさせる機能です。
たとえば手元にはストラトキャスター1本しかなくても、ライン音をレスポールやテレキャスターっぽく変えることができます。

さすがにソロなど前景のトラックに使用する場合はリアリティに欠ける感がありますが、リソースの限られた中でダブリングを行う場合などには活用できそうです。

BIAS FX2のリリースからおよそ1年後、2020年4月の無償アップデートにて、エミュレートできるギターの種類がそれまでの18モデルからさらに2つ増えました。今後もさらに拡張されることが期待されます。

なお、初めて使用するギター(モデルではなく録音に使う楽器)は、一度ギターのプロファイリングを行う必要があります。これは、画面の指示に従って単音やバレーコードを弾く作業で、慣れると2,3分足らずで完了します。この作業が完了したギターは、プロファイルに任意の名前を付けて、以後リストより選択するだけで使用できます。

Tone Cloud (AMP2/FX2)

多数のプリセットを、メーカが運営するサーバからダウンロードする機能です。
メーカ提供によるものの他、著名アーティストの手によるエリアも不定期で更新されています。また、膨大なユーザが投稿したプリセットはいまどきのSNS風にLikeできる機能があります。人気順にソートすることもできますので、膨大な選択肢の中から「使える」ものをある程度絞り込めます。

この機能の見どころは、オンライン・カタログにアクセスする機能がアプリケーションに統合されており、プリセットをローカル保存する前に1クリックで読み込み、試奏できる点です。このため、気になるプリセットを毎回ダウンロードして読み込んだりする必要がなく、内蔵プリセットを切り替えるのと変わらない手数でTone Cloudプリセットを試奏することができます。

なお、BIAS AMP2については、内蔵プリセットの多くが後発のキャビネットを活用しアップデートされた「V2」としてTone Cloudに掲載されています。筆者の印象では、これらの多くはサウンドの傾向はそのままに、より繊細なサウンドになっていました。製品を評価される際には、ぜひ刷新されたプリセット群をTone Cloudより入手していただき、そちらもお聴きいただきたいところです。

総評

本製品の特長としてすでに広く知られていることかと思いますが、BIAS AMP2は他に類を見ない粒度のカスタマイズ性を提供します。

マニアックさが取り上げられがちな本製品、実のところ、これまでゆる~くエレキとお付き合いしてきた筆者に使いこなせるか不安もありました。しかしフタを開けてみると、ひととおりの機能説明に目を通すこと自体が、むしろアンプ設計に関する学習機会となって、ちょっとした冒険を楽しむことができました。

ギターアンプのどの部分が、どの程度、あるいはどのようにトーンに影響するのか? プリアンプやその他モジュールの関連は?

BIAS AMP2では、各セクションをバイパスして一部だけの出音を聴いたりもできるので、それぞれにより起こる変化や、どのように名機のサウンドが特徴付けているかを推し量ることができます。

たとえばTone stack(アンプのフロントパネルで調整するEQ)だけを有効化すると、ノブのラベルこそTreble/Mid/Bassと多くの製品に共通するものの、各バンドの挙動がモデルによって大きく異なることがわかります。

わかりやすい例では、多くのモデルではBassはシェルビングEQですが、American Tweedは150Hzあたりを中心とする鋭いベルカーブとなっています。

図: Tone Stackセクションのみ有効にしたところ。
初期アンプに内蔵されたEQの多くは、MIDにピークが生じるピックアップの特性を相殺するために、ゼロ位置でも大きなディップが生じていることがわかります。またEQの多くがパッシブ構成のため、ひとつのノブの動きが他の帯域にも大きく影響する様子が見られます。

それぞれのモジュールにおける真空管や構成の違いが、どのようにサウンドや演奏時のダイナミクスに影響を及ぼすかもうかがい知ることができます。

余談ですが、Fender Bassmanが採用したパッシブEQの回路は、後にMarshallやVoxにコピーされ、各社の頭文字をとった”FMV Style”という呼称を与えられるほど一般的であったことを今回初めて知りました。関連記事

制作用のツールとしての有効性もさることながら、このような知的好奇心の探求を(なにより、安全、安価に)できるサンドボックスとしての使い方は、「アンプヘッド」「キャビネット」といったざっくりした括りでしかカスタマイズできない他社製品にはない魅力ではないでしょうか。

ところで、本製品の導入直後、教則ビデオサイト Groove3 でBIAS AMP2の機能紹介をひととおり見たのですが、そこでプリアンプやトランスといったモジュールだけを抜き出し、汎用サチュレータとして眠たいキック/スネアをヌケよくする手法が紹介されていました。このような製品としてはKush Audioのトランスシリーズやelysia Phil’s Cascadeといったものが思い出されますが、いずれも一長一短あり、個人的にはあまり実践投入できていませんでした。機会があれば、細やかな調整の効く真空管&トランス・シミュレータとしてBIAS AMP2が提示する可能性も模索してみたいところです。

さて、ここまでに肝心の音には言及しませんでしたが、筆者自身としてはいまのところ十二分に「使える」と感じていることだけ申し添えつつ、皆様のご判断に委ねたいと思います。

とりあえず、前述のようにビビりながらも飛び込んでみたところ、むしろ詳しくないからこそ大いに楽しめたし、今後も活用したいというお話を共有できればと思いました。

けっきょくどのエディション/バンドルを買えばいいの?

楽曲制作用に、DAW内で使う前提ののアンプシミュレータをお探しでしたらBIAS AMP2 Eliteが失敗しないと思います。Proとの最大の違いであるCelestion社のIRは一段上のリアリティに貢献しており、Proエディションとの価格差分の値打ちはあるように感じました。

あるいはリアルタイムの演奏含めオールジャンル楽しみたい方は、Metal、Acoustic、Bass用エキスパンションが付属し、現在20モデルにまで拡張されたGuitar Matchも使用できるPlatinumバンドルにダイブしても損はないと思います。なにより、モジュールの不足によりTone Cloudからダウンロードしたプリセットが使えないという悲しい状況を回避できます。

いずれも、昨今の制作用プラグインに比べるとやや高額な部類になりますが、同じ金額のハードとは比較にならない幅のサウンドをパレットに加えることができるかと思います。

…と、ZOOMのマルチペダルから初代LINE6 Podと渡り歩きながら、ゆる~くエレキを楽しんできた筆者は思うのでした。

長所

  • 操作自体は直感的
  • 楽曲制作時、前景にも背景にも「使える」プリセットが多いと感じた
  • 自由度がおそろしく高い一方、狙った音を作るのはそこまで難しく感じない
  • マイキングなど、実際の経験で培った音作りの手法をある程度流用できる
  • プレイヤーにもやさしい、モダンなUIデザイン

短所

  • アンプ周りの設定を行うBIAS AMP2と、演奏に便利な機能を多く備えたBIAS FX2の連携がシームレスでない
  • キーモディファイアでノブ類をデフォルト位置に戻せない。アンプのパネル類はともかく、マスターのアウトプットぐらいはきっちりゼロに戻したい…
  • 製品が実名で登場しない
  • さすがにラックエフェクトの品質は他社製品に及ばない

最後に

導入時にまつわる、ちょっとした体験談です。筆者がPlatinumバンドルを購入した際、認証キーで有効になるはずの付属パッケージのひとつが無効のままでした。この時は、サポートに連絡して追加の認証キーを発行してもらうことで有効にすることができました。
いずれかのバンドルを購入された際には、まずユーザページにログインして、バンドルに含まれているはずの製品がすべて”Purchased”になっているのを確認されることをお勧めします。

実はこれ以外にも、(ごく軽微な)バグレポートのために一度サポートに連絡しましたが、その時にチョットいいことがありました。

アメリカンでぶっきらぼうなところもありますが、よい意味で人間味を感じさせるメーカにけっこう好感を持っています。

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