製品レビュー:Tone Projects Unisum

マスタリング・コンプレッサ Tone Projects Unisumのレビューです。
「アナログライク」という謳い文句は聞き飽きましたか? Unisum評にも度々登場するこのフレーズが過剰宣伝か、はたまたデジタル界のブレイクスルーであるかは、皆様自身の耳でご判断いただければと思います。

総評

いきなりですが…これはデジタル・コンプの大革命です!(私見)
「プラグインのコンプはもうお腹いっぱいだよぉ」という方には大いにシンパシーを抱きますが、今回ばかりはスルーしてしまうと99%大損をする…かもしれません。

マスターバスやグループに対して、ダイナミクス成型のためのバスコンプを日常的に使用される方は、他を置いてしばらく貯金してでも入手する価値がある逸品だと思います。

~これまでのあらすじ~

当ブログでは、これまでダイナミクス系のプロセッサ…とりわけコンプレッサ類はほとんど紹介してきませんでした。

なぜかといいますと、コンプ類は趣味嗜好や取り扱う音源の性質との相性によるところが大きく、現在のプラグイン市場においては評価が一般化しづらいように思うためです。

もう少し平たくいうと、ユーティリティ色の強い製品であれば「〇〇という機能/特徴のおかげで作業効率アップ&時短は間違い無し!」という話がしやすいのですが、コンプはその限りでない場合がほとんどなのです。

過去に取り上げた例外としては、たとえばマルチバンド・パラレルコンプであるDynOne(過去記事)は、2mixに足りない厚みを簡単&クリーンかつ抑制されたかたちで付加できる数少ないツールと判断しました。

あるいはFabfilter Pro-G(過去記事)は、おおよそゲートに求める機能と洗練されたUI(なぜか他は寸足らずな製品が多い)を備えた便利ツールとして紹介させていただきました。

そのような背景から、マスタリング・コンプを紹介させていただくのは筆者としてもかなり勇気の要ることです。

実はUnisumがリリースされた2020年4月は個人的に慌ただしかったこともあり、この製品は完全にノーマークでした。(元々、片っ端から新製品を試している方でもないのですが…)

昨今の時勢を受けて、幸か不幸か筆者も少しばかり時間に余裕ができましたので、以前から個人的に不満を抱えていた「バスコンプいっぱい持ってるはずなのに、どれもしっくりこない!」という問題に取り組むべく、手始めに友人であるマスタリング・エンジニアのmoroishiさんに、こんな質問をしてみました。
「Weiss DS1-MK3がリリース直後に購入したきり以来塩漬けになっているのですが(アルゴリズムがそれなりに古い)コイツをいまさら習得するだけの値打ちはありますかね?」

これに対していただいたのが「Unisumいいですヨ」という、予想の遥か斜め上をいく👹のようなお返事でした。
使いはじめて約2週間、もはやUnisumのない世界には戻れないカラダになってしまった今ではmoroishiさんが👼に見えるのでありました…

特徴

マスタリング/バスコンプレッサです。

近年はソースに合わせて自動的に設定してくれるAIを売りにした製品や、特定の色付けに長けた「キャラクターコンプ」が増えましたが、Unisumはこれらの対極に位置します。 マスタリングエンジニアたるもの、ダイナミクスをどう抑制したいのかについて明確なイメージをもって編集対象と対峙するものであるという考えのもと、自由なダイナミクス成型を可能にするカスタマイズ性を重視した製品であることがメーカにより明言されています。

Unisumの素朴かつ気品あるフロントパネルを見ると、ツマミの数もさることながら、他の製品ではあまり見ないパラメータが目につきます。これらはいずれも、その「イメージどおりの成型」を実現する上で役立ちます。

しかし、この膨大なパラメータのすべてをマスターする必要はありません。
GUIは、一般的なコンプでもなじみのあるパラメータをまとめた上段(当エントリのトップ画像)と、”STYLE”と呼ばれるセクションに属するパラメータをまとめた下段(デフォルトでは隠れている)に分けられています。後者は独自のプリセット群を持っており、いわば2段構成でプリセットを作成/管理できるようになっています。

このため、初見者にはなじみの薄いSTYLEに関するパラメータ群は隠したまま、「FET風」「Opto風」といった標準STYLEを任意に選択し、細かい調整は上段の見慣れたパラメータだけで追い込む、といった使い方も可能です。

図:標準搭載されたSTYLE一覧

STYLEセクション

標準的なパラメータを操作するだけでも「これまでにないほどアナログライク」と評されるUnisumのスムーズさは体感できるかと思いますが、カユいところにまで手を伸ばすのならば、やはりSTYLEセクションも掘り下げたいところです。

図:最下段の”Edit Style”をクリックすると表示されるパラメータ

近年は低音の厚いの楽曲が増え、意図しない動作が起こらないよう、特にバスコンプではサイドチェイン信号にのみハイパス処理を行えるものが珍しくなくなりました。比較的近年のコンプで、サイドチェイン信号を細かくEQ処理できる製品としては、Pulsar Mu などが思い出されます。

上図:Brainworx VSC-2、下図:Pulsar Mu。
これまでもサイドチェイン信号(レベル検知器から見える信号)をEQすることでコンプの挙動を操作できる製品はありましたが、Unisumが提供する柔軟性は、もはや別次元のものです。

コンプ自体にこのような機能が備わっていなくてもサイドチェイン入力が備わっていれば同様の処理が可能です。たとえば、コンプが特定の帯域により強く反応するようにしたい場合は、同じ信号を別のバスでEQ処理してから送るといったことも可能です。

UnisumのSTYLEセクションのパラメータはこれに近いものがありますが、サイドチェイン信号への単純なEQとは比較にならないほど先進的なものになっています。

以下では、STYLEセクションの主要なパラメータをご紹介します。

Multiband Detector

Unisum自体は、フルバンドのコンプレッサです。マルチバンド・コンプレッサのように、音声信号を帯域に分けてそれぞれにダイナミクス処理を加えることはできません。代わりに、サイドチェイン信号の各周波数や信号成分の特徴に対し、どのような重みづけをするかを細かく調整することができます。

Multiband Detectorセクションのパラメータは、左から順におおよそ次のような操作を可能にします。

  • サイドチェイン信号を3つのバンドに分割する際のクロスオーバー周波数
  • (各バンドの)RMSウィンドウの大きさ
  • (各バンドの) ピーク信号に対する感度
  • (各バンドの) スレッショルド
  • (各バンドの) Ratioへの影響

最後の項目は、特定の信号に対してレベル検知器が反応した際にのみ、Ratioをリアルタイムで変更する機能です。この機能が有効になっている間、上段のRatioノブの周囲にあるLEDが点灯し、どのように影響を受けているかが視認できます。同様の機能は、その他のいくつかのノブにも備わっており、たとえば特定条件下でAttack/Releaseタイムを変える機能がはたらいている最中はそれらノブの外周が光ります。

Ratioノブ。基本設定は2:1ですが、指定した条件下で瞬間的に4:1になっていることがLEDで示されています。

Attack/Release Modifier

指定したレベル以上、または以下にある際に、Attack/Releaseタイムを変化させることができます。これもRatioと同じく、Attack/Releaseが変化する様子が、それぞれのノブの周囲に表示されます。

Channel Link

各チャンネル(設定によりL/RまたはM/S)のゲイン・リダクションが、それぞれ互いにどのように影響するかを設定するパラメータ群です。

Ozone9 Maximizerをはじめ、2つのチャンネルがどの程度、相互に影響するかを調整できる製品は珍しくありませんが、通常は0~100%(完全にリンクから、完全に独立)といった程度の設定しかできません。

RMS/Peak Biasノブでは、特定の信号成分がよりチャンネルリンクにも作用するといった設定が可能です。これにより、Sideチャンネルにリダクションをかける際に、Midチャンネルのピーク成分は比較的考慮しないようにする、といったふうに細かくターゲットを絞り込めます。

さらに、両チャンネル間のリダクション量の「差」に上限を設定することもできます。これを低めに設定しておけば、楽曲のごく一部に瞬間的に登場する極端な条件下でも、L/R、あるいはM/Sチャンネル間の音像が破綻することが回避できます。

その他

ほかには、Optoコンプに特徴的なメモリー効果の度合いや、コンプの反応を速度を微調整するために検知回路に2つ目のエンベローブ信号を混ぜる機能などがあります。

使用感

Unisumがスゴイ!と筆者が考える理由は、次の2点に集約されます。

1. 細かいパラメータを把握せずともメリットを享受できる

Unisumのメーカサイトにある製品概要を見ると、一番最初に推されているのは「アナログ機器に比肩する、並外れて低いIMD(相互変調歪み)やエイリアスノイズ」です。

ここ、筆者の零細ブログにおいて「かつてないほどアナログ・ライクなプラグイン」などというという使い古された表現をしたところで、説得力は皆無に近いと考え本稿では前面には出しませんでしたが、設定の自由度がUnisumの両輪のひとつなら、もう一方は信号のクリーンさであるといえます。

一見すると膨大なパラメータの海に溺れそうですが、実はEdit Styleセクションを閉じたまま標準Styleのいずれかを選び、表に出ている比較的コンプにありがちなパラメータを操作するだけでも、この革新的にアナログ・ライクとされる本製品の恩恵にあやかることができます。

制作においてディティールを大事にしつつ、Glueやダイナミクス抑制を目的としたバスコンプを常用される方は、まずは騙されたと思ってデモをお試しください。

2. 膨大なパラメータも実は直感的

筆者はマニュアルを隈なく読む方です。特定の製品に固有のパラメータの説明を読んで「ナルホド!」と思ったものの、実際に触ってみると効果や利便性のほどが実感できないことは珍しくありません。ことダイナミクス系の製品に関して顕著であるといっても過言ではありません。

Unisumのスゴイ!…というより不思議なところは、先進的なパラメータでさえ、一旦その用途を理解すると意外なほど思い通りに動いてくれるところです。

筆者が使用中に感じた、具体例を挙げてみます。

あるボーカル曲のマスターコンプとして使用したところ、プリセットのひとつがわりとすんなりとマッチしました。レベルマッチングした上での密度の増加もステレオ拡張も適度です。「もうこれでOKではないか?」と思いながら続けて聴いていたところ、大サビのここぞというところだけ、ボーカルが必要以上に叩かれて引っ込んでしまいました。
並大抵のコンプであれば、ここでなにかしらの設定を部分的にオートメーションで操作するか、あるいは別の解法を探すことになるかと思います。

しかし、Unisumには、Thresholdとは別に設定した閾値を越えた瞬間にだけ、アタック/リリースタイムに任意の倍数を掛ける「Attack/Release Modifier」セクションがあります。ここで、ラウドな部分にのみLEDが反応するよう閾値(X-Over Level)を調整し、越えた場合にはAttackタイムが長くなるよう調整しました。結果、わずかノブひとつで、よりナチュラルかつ柔軟にソースに対応するセッティングができました。

同様にMultiband Detectorセクションも、感覚的に使っても思いの外、すんなりイメージに近付けることができました。

各機能を極めずとも、具体的な目標さえイメージできれば追従してくれるため、他のマスタリングコンプよりもむしろ習熟は早いかもしれません。

逆にいえば、一度はマニュアルを熟読して、それぞれの機能の概要を把握する必要があるともいえます。直感的にツマミをいじっていれば、そのうち効果を理解できるという製品ではないと考えます。

代替品

ちょっと意地悪ですが、上記はUnisumの代替品になりうるものでなく…いずれも、海外フォーラムGearslutzで急速に伸びるUnisumスレッドにて「おかげでオサラバできた」として他のユーザから名前の挙がった製品の一部です。筆者の印象では、リストの上に行くほどRMS/Peakを個別に認識できたりと、本来マスタリングにも使えるよう融通が利くよう設計された製品です。ほかにも「中古ハード市場が賑わいそうだねェ」というハイコンテクストな書き込みもありました。

余談ですが、同フォーラムには「まだβ段階の製品をクリティカルな納品物で使うことはイレギュラーだし抵抗があったけど我慢できず、つい…」と告白するテスター(プロのマスタリングエンジニア)の声が散見されました。

あらためて総評

Unisumは、「現代のバスコンプに求められるハンドルとはなにか」をイチから再考して作り上げられたコンプといえます。

とにかく聴いていただかないことには始まりませんのでこのあたりで筆を置くことにしますが、Unisumの登場は、筆者にはちょっとした…いや、大事件に見えます。 冒頭のとおりです。バスコンプを常用される方は、ぜひ騙されたと思って一度お試しください。

最後になりましたが、HYGGEというボタンは、アナログ回路の不確定性を加えるためのものです。これは、デジタルっぽさを感じさせないとはいえ色付けが強すぎて筆者は用途を見出せていませんが、使用時には試されてみてはいかがかと思います。(このスイッチも他のパラメータとの相互作用が多大にあり、単純にWet/Dryノブを付けることはできなかったそうです。もう少し柔軟なサチュレーション機能は次の課題…とは作者の弁)In-the-boxで使うマスターコンプに色も求める方は、モデリング系のプラグインを素通しするなどして併用するといいと思います。(UnisumとAcusticaのタッグが最強説もけっこう目にしました)

長所

  • 音楽性を保ったままダイナミクスの成型が自由自在
  • Style選択+従来のコンプにあるパラメータを操作するだけでも使える超良質コンプ
  • いまのところ、すこぶる安定
  • 比較的軽量。機能性を考えれば、もはや魔法レベル
  • ダイナミクスを成型(≠均一化)したいVoトラックなどにもイイ

短所

  • 細部に手を伸ばすには英文マニュアル熟読が必須(筆者私見)
  • サイドチェイン入力がない
  • アナログ回路を再現するHYGGEは現在のところビミョー

ご購入はコチラ

ご購入時の注意

筆者が購入した際、PayPalに登録していた名前が自動的に抽出され、そのまま登録ユーザ名になってしまいました。製品アクティベーション時に入力が必要となる情報がマルチバイト文字を含むことをよく思わない方は、ご注意ください。

この点については改善リクエストをメーカに送付済みですので、現時点ではすでに変更されているかもしれません。(先々のことを考えて半角英数のユーザ名への変更をメーカに依頼したところ、1日ほどで対応していただけました)

Scroll to top